戦略インフラ先送り・実務先行 中緬首脳会談
ミャンマーのミン・アウン・フライン大統領が大統領として初めて中国を公式訪問し、習近平国家主席ら3首脳と会談、18件の合意・MoUに署名した。インド訪問(5月30日~6月3日)に続く多方向外交の一環として実務協力の枠組み固めを優先したが、大型インフラ開発の2案件は今回の合意に含まれなかった。
ミン・アウン・フライン大統領、中国を国賓訪問
ミン・アウン・フライン大統領は6月15日から19日まで、習近平・中国国家主席の招待により中国を国賓訪問した。4月10日の大統領就任後2回目の外国公式訪問であり、大統領として初めての中国訪問となった。16日には人民大会堂において習主席との首脳会談、李強首相との会談、趙楽際・全国人民代表大会常務委員長との会談が相次いで行われた。中国外務省によれば、16日午前の歓迎式典では天安門広場で21発の礼砲が行われ、軍楽隊が両国国歌を演奏した。首脳会談後、習主席は昼食会を主催した。
習主席は会談で「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)は一帯一路協力の旗艦事業だ」と述べ、「安全を確保したうえで主要プロジェクトの建設を着実に前進させる」と強調した。中国外務省が発表した会談内容によれば、マンダレー地震後の復旧支援強化、オンライン賭博・通信詐欺・麻薬取引への共同対処、北部ミャンマーにおける対話を通じた和平と安定の実現についても確認した。ミャンマー側はCMECの推進と中国のグローバル安全保障・文明・発展の3大イニシアチブへの全面支持を表明した。
「多国間枠組みにおける協調を」習主席
李強首相との会談では、新華社によれば、再生可能エネルギー・人工知能・デジタル経済分野への協力拡大、越境犯罪対策の強化とミャンマー国内の中国人・中国機関の安全確保が確認された。習主席は「複雑な国際情勢のなかで多国間枠組みにおける協調を強化すべきだ」とも述べた。
今回の訪問で両国は18件の合意・MoUに署名した。ワン・ニュース・ミャンマーが報じた一覧によれば、GSI(グローバル安全保障イニシアチブ)・GCI(グローバル文明イニシアチブ)・GDI(グローバル発展イニシアチブ)各イニシアチブ協力MoU、人材開発プログラムMoU、アウンサン・スタジアム再建支援MoU、ミャンマー産バナナ・漢方薬・水産物の対中輸出に関する植物検疫・衛生協定、大メコン圏越境輸送円滑化MoU、医療・科学技術・メディア分野の協力MoUなどが含まれる。
一方、チャウピュー深海港とムセー~マンダレー鉄道については今回の合意文書に含まれなかった。スリランカ・ガーディアン紙も同鉄道を「計画・交渉段階にとどまる」と伝えており、習主席が「安全確保を前提に」と条件を付してCMECに言及した発言とも符合する。
印・中・タイ・露が関与競う
今回の訪中は、周辺国のミャンマー関与が再活発化するなかで実施された。ミン・アウン・フライン大統領は訪中に先立ちインドを公式訪問してモディ首相と会談し、カラダン・マルチモーダル輸送計画やインド・ミャンマー・タイ三国間高速道路など西回廊・インド洋接続での協力を確認した。タイも4月にシハサック副首相兼外相がミャンマーを訪問して国境貿易・投資協力を再確認し、ロシアは軍事・エネルギーにとどまらずデジタル統治分野への関与も広げている。 習主席が「流動的な国際情勢のなかで戦略的な冷静さを保ち、団結と協調を強化すべきだ」と述べたのは、こうした多極的な競合環境を意識したものとみられる。
中国との一連の会談の核心は、大規模インフラ合意の先送りと実務協力パッケージ始動という「二段構え」にある。とくに二つの案件の前進には、北部ミャンマーの安全環境整備が不可欠であり、その実現時期が問われる局面が続く。
日本企業・関係機関にとっても、18件の合意に基づく農業・医療・物流分野の実務再開の進捗と、国境貿易ルート・通関環境の安定化がいつ実現するかが注目されるところだ。