202610.22
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ダウェーを軸に3カ国エネルギー取引を協議

 ミャンマーとタイは10月19日、ネピドーでの閣僚会談で、南部ダウェーを拠点にロシアを含めた3カ国間のエネルギー取引の可能性を協議した。タイとの既存の天然ガス取引と、ロシアが関与するダウェーの港湾・発電・製油所計画を結び付ける構想だ。

ミャンマー·タイ閣僚会談で検討

 Eleven Mediaと国営紙Global New Light of Myanmar(GNLM)の10月20日付報道によると、コー・コー・ルウィン電力・エネルギー相は10月19日、タイのアカナット・プロムパン・エネルギー相と電力・エネルギー省で会談した。タイ側からはPTT、PTTEP、タイ発電公社(EGAT)の関係者のほか、駐ミャンマー・タイ大使も参加した。GNLMによると、両国は電力・エネルギー協力に関する覚書(MOU)の締結、既存ガス田の増産、新規事業への投資、両国間パイプラインの最大限の活用を協議した。サルウィン川とタニンダーリ川流域の水力発電、国際送電線、送配電事業へのタイ企業の投資も議題となった。

 あわせて、ダウェーを拠点とするミャンマー・タイ・ロシアのエネルギー取引の可能性も話し合われた。両紙とも、この構想の詳細や条件、協議の結果には触れていない。

図1 ダウェーを軸とする位置関係と協力構想。地図は協力の接点を示すもので、実際の輸送経路や建設区域を示すものではない。

ヤダナ·ゾーティカの実績が起点

 構想の土台となるのは、すでに稼働しているミャンマー・タイ間の天然ガス供給である。PTTEPの2024年通期資料によると、ヤダナ・ガス田の平均生産量は日量4億4,300万立方フィート、ゾーティカは同3億200万立方フィートで、合計は日量7億4,500万立方フィートとなる。

 Frontier Myanmarが伝えたタイ・エネルギー省のデータでは、2024年1~11月のタイ向け輸出量はヤダナが日量2億5,000万立方フィート(前年同期比13%減)、ゾーティカが同2億2,500万立方フィート(同5%減)だった。

 タイ政府は2026年8月10日の発表で、ヤダナとゾーティカからの供給が過去にタイの天然ガス需要の15~20%を占めたと説明した。この比率は現在の輸入依存度を示すものではないが、ミャンマー産ガスがタイの電力・産業を支えてきた重要性はうかがえる。同発表は、期限が近づくガス田契約の延長やA6鉱区などの投資機会も協議したとしている。

ダウェーへのロシアの関与

 ロシアはダウェーの港湾・エネルギー施設への関与を進めてきた。Interfaxによると、2025年2月にロシアのレシェトニコフ経済発展相とミャンマーのカン・ゾー投資・対外経済関係相が、ダウェー経済特区(SEZ)の投資協力覚書に署名した。対象として示されたのは、貨物港、石炭火力発電所、製油所である。

 2026年6月5日には、ニョー・ソー副大統領のロシア訪問中に、ロシアのInter RAOとミャンマーのLaunglon Economic Developmentが、ダウェー深海港の発電所開発に関する覚書を交わした(Eleven Media、6月7日付)。出力や投資額は公表されていない。

 Interfaxによると、レシェトニコフ氏は8月19日、発電所の計画出力を660メガワット(66万キロワット)と説明し、製油所の設計と資金面も協議していると述べた。660メガワットは計画値であり、運転中の設備容量ではない。この発言だけから、6月の覚書の詳細仕様が確定したとは判断できない。

ロシアは商業面に狙い

 ロシア側が公式に示している理由は、商業面が中心である。レシェトニコフ氏は、ロシア企業が投資回収期間中に事業の過半数持分を維持できる条件は、ロシアの銀行が融資するために必要だと説明した(Interfax、8月19日付)。2025年2月には、ミャンマーには自国の石炭があるが、ロシア産を輸入することもできると述べた。製油所については、ミャンマー側が自前の製油所を望んでいる事情にも言及している。

 プーチン大統領は8月18日のミン・アウン・フライン大統領との会談で、製油所建設の協議、ミャンマー大陸棚を含む炭化水素の探鉱・生産、他国への輸送を含むロシア産液化天然ガス(LNG)の対ミャンマー供給の見通しに触れた(Reuters、8月18日付)。同報道にダウェーへの直接の言及はない。ミシュスチン首相は、ロシア企業がダウェーSEZと連携し、貿易拡大と雇用創出を目指すと述べた(Reuters、8月21日付)。

今回確認した範囲では、ロシア政府高官の発言に戦略面の意図を直接示したものはない。

 研究機関ASIA(ニューデリー)のプレクシャ・ジャラン氏は8月25日付の分析(Decypher)で、モスクワは「緊密化する戦略的関係の中の潜在的投資家」と捉えるべきで、資金手当てが済んだロシアによる事業掌握と混同すべきではないと指摘した。シンガポールの研究機関ISEAS(ISEAS-ユソフ・イシャク研究所)のシニアフェロー、イアン・ストーリー氏は、両国関係は「非常に取引的」で、ダウェーはモスクワにとって戦略的価値がある一方、商業案件としては成り立ちにくいとの見方を示した(CNA)。

 当事者の発言から確認できるのは、事業収益と融資の確保、石炭やLNGなどロシア産エネルギーの供給先づくりという商業面の関心である。アンダマン海側の拠点という戦略面の関心は研究者の見方であり、ロシア政府の説明ではない。8月18日の首脳会談では、一方的な強制措置への対抗を掲げる共同宣言も署名されており(Intellinews、8月19日付)、エネルギー協力が対外関係の広がりの一部として位置付けられているとみられる。

指標数値時点・位置づけ
ヤダナ平均ガス生産量443 MMSCFD2024年実績/事業全体(PTTEP)
ゾーティカ平均ガス生産量302 MMSCFD2024年実績/事業全体(PTTEP)
2事業の合計745 MMSCFD上記の単純合計/輸出量ではない
ヤダナのタイ向け輸出量250 MMSCFD2024年1~11月/タイ・エネルギー省データ(Frontier Myanmar)
ゾーティカのタイ向け輸出量225 MMSCFD2024年1~11月/タイ・エネルギー省データ(Frontier Myanmar)
ダウェー発電所の出力660 MW2026年8月のロシア側説明/計画(Interfax)
ダウェーSEZの区域面積196 km²MIE公表/計画区域
タイ国境までの距離約138 kmMIEによる位置説明/現在の所要時間ではない

MMSCFD=日量100万標準立方フィート。生産実績、輸出実績、計画出力、区域面積、位置情報は性質が異なるため、相互に規模を比較する指標ではない。2024年の数値は参考実績で、2026年の現況値ではない。

 ダウェーはミャンマー南部のアンダマン海沿岸にあり、タイ側の産業・消費市場との連携を構想しやすい立地だ。開発会社MIEの公表資料によると、SEZ全体の区域は196平方キロメートルで、工業団地は別枠の27平方キロメートルと説明されている。タイ国境のバンプーナムロンまでの距離は約138キロメートルとされる。

 Reutersによると、タニンダーリー地域政府の首相は8月、モスクワでのフォーラムで、ダウェー港はマラッカ海峡経由より輸送日数を4~6日短縮でき、沖合ガス田から約45キロの距離にあると説明した。

 これまでの発表を見る限り、ミャンマーが資源と立地、ロシアが開発事業への関与、タイが既存の取引基盤と需要市場を持つという補完関係が浮かぶ。タイとの連携が具体化すれば、ダウェーの発電・燃料関連事業で販売先や取引規模を検討する材料になり得る。ただ,現時点で、3カ国が共同の事業モデルに合意したわけではない。

厳しい事業化の前提条件

 ロシア側が求める過半数持分の条件に、ミャンマー側が応じたかどうかは、現状では不明だ。製油所についても、レシェトニコフ氏は2025年2月の時点で、財務面で最も難しく採算性の見極めが続く案件と位置付けていた(Interfax)。設備計画に加え、出資比率、融資条件、燃料調達、電力・石油製品の買い手を確定させる必要がある。

 治安と地域社会への影響も、事業の前提条件となる。Reutersは2026年8月21日、軍が7月以降、ダウェーSEZ予定地周辺に数百人規模の部隊を投入し、村落に被害が出ているとする住民・抵抗勢力関係者らの証言を報じた。同社は証言を独自に確認できておらず、ミャンマー政府と在ミャンマー・ロシア大使館から回答はなかったとしている。

 10月19日の会談にロシア側が出席したかは不明で、さらに3カ国協定、具体的な取引品目・数量、購入契約、最終投資決定、着工時期なども示されていない。

 個別に進んできた2国間協力を、ダウェーを軸に3カ国の枠組みへ広げられるかが焦点となる。今後は共同声明や事業会社の発表を通じ、役割分担と実施条件がどこまで具体化するかが注目される。

(主任研究員 宮野弘之)