202610.24
New ! 情勢レポート

対外接触の広がりが映すミャンマー政府の外交環境

米国と1カ月で2度協議、笹川氏も大統領と会談

 ミャンマー政府の対外接触が、米国と日本の双方で重なっている。9月のネピドーと10月上旬の東京で米国と協議し、10月20日にはミン・アウン・フライン大統領が、ミャンマー国民和解に関する日本の特使を務める笹川陽平氏と会談した。いずれも協議内容や位置づけには不明な点が多いが、接触が途切れず続いていること自体が、ミャンマー政府側の外交上の余地を広げる方向に働くとみられる。

米国との2回の協議

 ロイターは10月8日、米国務省のマイケル・バンス次官補(情報調査担当)が、9月15~16日にネピドーでミン・アウン・フライン大統領との協議に加わったと報じた。バンス氏は2026年8月に国務省の情報調査部門の責任者として承認された人物で、ジェイディー・バンス副大統領とは別人である。協議は米国人実業家の解放と、米国民を標的にした詐欺拠点の閉鎖が中心で、レアアース(希土類)を含む広範な議論につながる可能性があるとされた。

 イラワディは10月16日付で、この協議で米国人実業家アダム・カスティヨ氏(Adam Castillo)の解放が実現したと伝えた。同氏は2026年6月にヤンゴンへ戻った際、自身に対して起こされた訴訟を理由に拘束されていたという。イラワディが把握したところでは、ネピドーの協議で米側は、民間人への攻撃の抑制、資金洗浄組織の取り締まり、少数民族武装勢力との対話、政治囚の釈放、人道支援の円滑な配布を求めたという。米国務省は、ミャンマーのあらゆる集団と米国の利益に関わる問題で関与しており、暴力の停止や政治囚の釈放の必要性も提起していると説明している。

 ロイターは10月16日、米国とミャンマー政府が「先週」東京で協議したと報じた。3人の関係者の話として伝えたもので、うち1人は米政府当局者だった。バンス氏が再び協議を率い、米側からは12人を超える当局者が参加したという。ミャンマー側の代表はロイターも特定できておらず、ミャンマー政府の報道官はコメントの求めに応じなかった。同報道によると、6月にも東京で協議が行われている。

 米国務省はバンス氏の同席についてコメントを避けたうえで、同氏の部局は対ミャンマー政策を主導しておらず、政策の形成と実施は東アジア・太平洋局が担っていると説明した。報道官は、ミャンマーとの関与は、特に国境を越える犯罪の影響を受ける人々を含む、米国民にとっての実利を得る意図に根差していると述べたという。

 同報道によると、米国は10月上旬、ミャンマー軍を支援したとされるミャンマー人実業家の娘に対する制裁を解除した。国務省はこれを新たなアプローチの一環と位置づけ、内戦に関わるすべての集団との対話を重視し、これまで用いてきた政策手段を見直すと説明している。一方、ミン・アウン・フライン大統領本人に対する米国の制裁は続いている。

 ミン・アウン・フライン政権に反対する勢力でつくる国民統一政府(NUG)のズィン・マー・アウン外相はイラワディに対し、米国は双方と関与しているものの、いずれにも正統性を与えるものではなく、実利に基づく対応だとの見方を示した。同氏は、トランプ政権発足以来、米国は各国にこの姿勢で臨んでおり、政策転換ではないと語っている。一方、少数民族組織のカヤー州暫定執行評議会のバニャ・クン・アウン第2書記は、米国の関与拡大が連邦民主主義や人権の運動に影響を及ぼすことへの懸念を示した。

レアアースの壁

 米側は、レアアースの鉱床の利用についても議論したとされる。ロイターによると、米当局者自身が大きな障害を認めており、鉱床の多くは軍と戦う少数民族武装勢力の支配地域にあるうえ、最大の買い手である中国が米国の関与に難色を示す可能性がある。イラワディの10月23日付記事は、ミャンマーには衛星画像で確認された約600のレアアース鉱山があり、ほぼすべてがミャンマー政府の支配地域の外にあると指摘した。うちカチン州が約8割を占め、チッウィ郡とモーマウク郡に集中する。2024年10月以前は政府側と連携する民兵組織(新民主軍カチン)が管理していたが、カチン独立軍(KIA)が攻勢で鉱山を掌握した。シャン州でも、タアン民族解放軍(TNLA)、ワ州連合軍(UWSA)、民族民主同盟軍(NDAA)の支配地域で約90の鉱山が確認されている。数字はスティムソン・センターとISPミャンマーのデータに基づく。

 需要の側では、同記事が上海金属市場のデータとして、中国の9月のレアアース輸入は5,021トンで前月比23%増、その約7割がミャンマー産だったと伝えている。

 政府との協議だけでは採掘や輸送を確保できないとみられ、レアアースの調達という米国の期待には限界がある。ただし、鉱山を掌握していないことと、外交上の利益を得られないことは同じではない。ミャンマー政府側は今回の協議について公式の説明を出しておらず、その意図は米側の説明や報道から推し量るほかないが、資源取引の成立前であっても、米国と直接協議する機会そのものが、対外関係を広げる材料になるとみられる。

日本側の接触

 国営紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー(GNLM)は10月21日、ミン・アウン・フライン大統領が20日にネピドーで日本の笹川陽平氏と会談したと報じた。ロイターによると、両者は笹川氏によるミャンマーの国内和平プロセスへの支援と、日本財団による人材育成支援を話し合った。ロイターは笹川氏を、日本財団の名誉会長で、ミャンマー国民和解に関する日本の特使と紹介している。日本の外務省は、ロイターの取材に報道時点では回答していない。

 報じられた限りでは、笹川氏と大統領の会談は、大統領就任後では8月10日に続く2回目となる。イラワディによると、8月の会談では洪水復興と和平プロセスへの協力が話題となり、国営紙は同氏を日本財団の名誉会長とのみ伝えた。ロイターは、笹川氏が2022年に国軍とアラカン軍の停戦を仲介した一方、その停戦がその後崩れたとも伝えている。今回の報道で示されたのは支援の意向にとどまり、具体的な交渉の枠組みは明らかになっていない。

 ロイターによると、日本の外務省は米国とミャンマー政府の協議で開催地となった役割を問われ、双方と「必要に応じて意思疎通を行っている」とするメールでの声明を出し、個別の外交上のやり取りへのコメントは控えた。同報道は、日本が開催地以上の関与をしているかどうかは不明としている。

 日本側の接触はこのほかにも続いている。9月には、与党議員の渡辺博道元復興相が、国営紙の報道によれば二国間協力と開発援助の再開を目的にネピドーを訪れた。同紙は、同氏が連邦議会下院のキン・イー議長とも会談したと伝えた。外務省は、この訪問は議員個人としてのもので、政府の立場を「何ら予断するものではない」と説明している。10月初めには在ミャンマーの日本の臨時代理大使が外相と会談した。公になったものとしては初の接触とされ、外務省は邦人保護や日本企業への支援などを提起したと説明している。日本は同政府を正式には承認していない。

 議員、外交官、特使と、日本側の経路はそれぞれ位置づけが異なる。外務省は議員の訪問については立場を明確にしたが、笹川氏の会談についての政府の説明は報じられていない。個々の接触を日本政府の方針転換とみなすことはできず、東京が協議の場となったことと、笹川氏の会談との関連を示す報道もない。ただ、米国と日本の双方が、異なる経路で同じ時期にミャンマー政府側と接触を重ねているという事実は残る。

今後の焦点

 当面は、詐欺拠点への対応など、成果を測りやすい分野に米国との協議が絞られる展開が考えられる。米側が具体的な成果を得られれば、次の協議を続ける理由になり、ミャンマー政府側にとっても、協力の実績を対外関係の改善につなげる機会となる。他方、実利を目的とした接触ほど、成果が乏しければ継続の根拠を失う。レアアースなど経済・戦略分野への拡大には、鉱山を支配する勢力との関係、輸送経路、加工・販売の仕組みが整う必要があり、協議の継続と資源開発の進展は分けて見る必要がある。

 和平プロセスは、米日の動きが交わり得る分野である。イラワディは、米側がネピドーの協議で少数民族武装勢力との対話を求めたと伝え、笹川氏の会談でも和平プロセスへの支援が話題となった。両者を結びつける報道はないが、支援の意向が具体的な枠組みに進むかどうかは、日本の関与の度合いを測る材料になる。

 今回の一連の接触から読み取れるのは、ミャンマー政府側が国内の課題を抱えたままでも、米国と日本の双方との交渉経路を広げ得るという点である。この経路が継続的な協力に進むかどうかは、次の接触の有無と、協議が具体的な成果を伴うかにかかっている。

(主任研究員 宮野弘之)