202509.15
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ミャンマー中央選管、選挙不実施区を公表

段階実施で民政移行に向け前進 NDFなど解党も

 ミャンマー連邦選挙管理委員会(UEC)は9月14日付で、総選挙を2025年12月28日に開始し、2026年1月末までに結果を公表すると発表した。今回の総選挙は従来の全国一斉方式ではなく、治安や準備状況に応じた段階的実施方式が採用される。長期にわたる移行過程の中で、統治制度の再構築に向けた重要な局面と位置づけられており、国内外から大きな注目を集めている。UECは9月15日付の国営紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー(GNLM)に掲載した告示第103/2025で、投票を行わない選挙区の一覧を公表した。不実施区は下院(人民代表院)で56、上院(民族代表院)の小選挙区で9、地域・州議会で56に及ぶ。対象にはチン州パレトワ郡区、ラカイン州マウンドー郡区、シャン州パンカム郡区などが含まれ、カチン州やシャン州北部など国境地帯の地域も多数挙げられた。これらの地域は武力衝突や治安不安が続き、投票所の設営や開票所への投票箱輸送が困難とされる。UECは選挙委員会法第10条(f)項に基づき「自由かつ公正な選挙の実施に適さない」と判断したとしている。

 告示によれば、実際に投票が行われるのは下院274選挙区、上院の小選挙区75と比例代表26、地域・州議会の小選挙区266と比例代表42、さらに少数民族代表29である。従来の全国一斉投票とは異なり、「可能な地域から段階的に実施する」方針が公式に示された点で制度上の大きな転換点となった。 選挙準備の状況について英字紙イレブン(Eleven Media)は、電子投票機の配備が進められ、政党代表や地方当局者を交えた説明会が各地で実施されていると報じた。投票所の設営方法や票の輸送手順が具体的に共有され、地方行政官や政党関係者が参加したとされる。選挙スタッフの訓練も開始されており、有権者確認や投票所管理の手順が実地で確認されている。
 しかし、同紙は「一部地域では治安不安からスタッフ自身が標的となる可能性がある」と指摘し、実務的な進展と同時に安全上の懸念が存在することを伝えている。

 タイ紙バンコク・ポストは、ミャンマー東部では投票範囲が拡大している一方で、北部や国境地帯では依然として投票が難しい状況が続くと分析している。選挙が計画通りに進むかどうかは、残された数か月の準備と現地の治安情勢に大きく左右される見通しである。

 政党登録をめぐる動きも選挙前の重要な焦点となった。UECは9月10日付の告示95/2025で、国民民主勢力党(NDF)、国民政治民主党(DNP)、女性党(Mon)、連邦農民労働者勢力党の4党の登録を取り消した。理由は党員数や事務所要件を満たしていなかったためとされるが、NDFは「8万人を超える党員と100以上の事務所を維持していた」と主張し、判断は不当だと反論している。

 イレブン紙は「UECの調査結果とNDFの主張には大きな隔たりがある」と報じ、イラワジも「登録要件の厳格な適用は政治的多様性を狭める可能性がある」と伝えている。NDFには国民民主連盟(NLD)出身の元議員が多数参加していた経緯があり、その解党は国内で大きな注目を集めている。今回の決定は政党制度の安定化を狙った措置とされる一方、選挙に臨む有権者の選択肢を減らす結果にもつながっており、制度と多様性のバランスをどう取るかが問われている。 国際社会も選挙の動向に注目している。新華社通信は「12月28日に第1フェーズを実施する」と報じ、環球時報は「秩序ある多党選挙が地域の安定を促す」と論じた。ロシア通信は「投票開始は国内安定に向けた一歩」と評価している。
 タイムズ・オブ・インディアは天津で開かれた上海協力機構(SCO)サミットでのインドとミャンマー首脳の接触に触れ、「投票開始が対外関係における交渉の基盤を生む」と報じた。国際報道の多くは、段階的方式を「不完全ながらも現実的な選択肢」として受け止めており、地域情勢の安定につながるかどうかを注視している。

 一方で言論環境に関する懸念も続いている。AP通信は、選挙計画をFacebook上で批判した市民が重労働刑を受けた事例を報じ、反政府組織が選挙妨害を示唆しているとも伝えている。選挙活動の自由や安全がどの程度保証されるのかは依然として課題である。市民社会の活動やメディア環境に制約が残る中での投票は、結果の正統性をめぐる議論を呼ぶ可能性が高い。

 ミャンマーの総選挙は、2010年の選挙が、軍主導する中で行われたが、発足したテインセイン政権下では経済開放、民主化が大きく進んだ。2015年には国民民主連盟(NLD)が圧勝し、さらに民政移管が進んだ。2020年の選挙では再びNLDが大勝したが、選挙結果をめぐり国軍とNLDが対立し、21年の非常事態宣言に繋がった。
 2025年総選挙は、20年の選挙から5年ぶりに実施される国政選挙だ。従来は全国一斉投票が原則であったが、今回は「治安が確保された地域から段階的に投票を始める」という方式が初めて導入され、選挙制度における新たな枠組みを示すものとなった。UECが不実施区を明示したことは透明性を高める一方で、国家統治の不均衡を事実上、認めた格好だ。電子投票機の導入や説明会は現実性を補強する取り組みと評価されるが、政党登録の厳格化や言論環境の制約は参加の幅を狭める要素ともなっている。
 それでも、12月28日の投票開始は象徴的な意味を持ち、翌年1月末に予定される結果公表は新たな局面を決定づけることになる。課題は山積しているが、投票が始まるという事実そのものが、移行過程における前進として位置づけられている。