2024年後半から2025年初頭にかけて、反政府武装勢力であるカチン独立軍(KIA)は、ミャンマー・カチン州の鉱山地帯を次々と制圧した。中国はこれまで、そこから輸入される重希土類を依存的に受け入れていたが、その供給が突如として途絶する事態となった。ロイターによれば、中国への輸出量は前年の1万3千トン規模から半減し、国際市場価格は1kgあたり170ドルを突破する異常事態に陥ったという(Reuters, July 8, 2025)。
他方で、この事態は米国にとっても静観できる問題ではない。トランプ政権の外交政策アドバイザーらが、KIAとの接触や和平仲介、さらには米国企業による採掘権の確保を視野に入れた提案を受けたことが明らかになった(Reuters, July 28, 2025)。人権や民主主義といった原則を前面に出してきた米国の対ミャンマー政策は、資源安全保障の名の下に再構築されつつある。
加えて、米国はインド、オーストラリア、日本を巻き込んだ多国間の鉱物供給戦略を強化している。2025年、クアッド(Quad)は「重要鉱物イニシアティブ(QCMI)」を発足させ、中国の精錬支配からの脱却を共同目標とした。インドではレアアース供給の約80%を中国に依存している現実に対し、政府主導で自国鉱山開発と磁石製造技術の強化が進められている(Times of India, July 2025)。
このなかで、日本の立場は微妙である。2010年の中国によるレアアース禁輸を経験して以降、日本は豪州ライナス社との連携や南鳥島海底泥の採掘準備などを進めてきた。2026年には実証採掘の開始が予定されているが、ミャンマーの資源問題については沈黙を保ち続けている。外交関係者によれば、「人権・民主主義への配慮を重視しながらも、資源の安定確保は避けがたい国家課題」であるとの声が漏れている(Reuters, July 4, 2025)。