202509.06
ニュース解説

天津SCOサミット舞台に、総選挙へ地ならし

  2025年12月28日に予定される総選挙を控え、ミャンマー国家安全保障・平和委員会委員長のミン・アウン・フライン大統領代行が中国・天津で開かれた第25回上海協力機構(SCO)首脳会議(天津サミット)に出席した。会議は8月31日から9月1日にかけて行われ、域内外の首脳が一堂に会した。国営紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー(GNLM、9月1日付)は、ミン・アウン・フライン氏が複数の首脳と接触し、「選挙に向けた国際社会の理解と協力を得た」と報じた。

写真提供:The Global New Light of Myanmar Sep 01, 2025

 今回のサミットで注目されたのはインドのモディ首相との会談である。モディ首相は「公正で包摂的な選挙の実施を期待する」と発言し、選挙監視団派遣の検討を示唆した(Times of India、9月1日付)。ロイター通信も「インドがミャンマーの選挙計画を支持した」と伝え、インドが国境治安と経済回廊の安定を重視していることを指摘した。北東部国境の不安定はインドにとって重大な課題であり、選挙の透明性確保は安全保障上の意味を持つ。

 中国側の動きはさらに明確だ。中国共産党の機関紙の一つである環球時報(Global Times、8月31日付)は、習近平国家主席とミン・アウン・フライン氏との会談で「中緬経済回廊(CMEC)のインフラ協力が進展した」と報じた。会談では、石油・天然ガスパイプラインの安定運営、水力発電所の整備、電力網の強化、光ファイバー通信網の拡充に加え、国境治安の改善、越境詐欺対策、カチン州でのレアアース開発など幅広い分野が議題となったとしている。中国側は「経済協力の前提は国境の安定だ」と強調し、北部の不安定要因を抑える姿勢を示した。選挙に向けて治安確保を最優先課題とするミャンマー側にとって、この協力は不可欠である。

 一方、ロシアとの関係も注目される。プーチン大統領との直接会談は確認されていないものの、GNLM(9月1日付)は両国が「トレーディングハウス設立に向けた協議を行った」と報じた。プーチン大統領はサミットで「SCO加盟国とのエネルギー・防衛・経済協力を拡大する」と表明し、ミャンマーとの関係深化を視野に入れている。

 ロシアはミャンマーにとって中国と並ぶ主要な武器供給国であり、戦闘機や防空システムを提供してきた。多数のミャンマー軍人がロシアで訓練を受けていることも知られている。加えて、ロシアからの石油製品輸入やエネルギー開発協力が進み、経済面での結び付きも強まっている。国際制裁下で孤立を深める双方にとって、関係強化は相互補完的な意味を持つ。ミャンマーは選挙を通じて正統性確保の後ろ盾を求め、ロシアは外交的支持と市場を確保する狙いがある。

 選挙準備の状況についてIrrawaddy(8月29日付)は、第1段階の投票が330郡区のうち102郡区で行われ、首都ネピドー全域が含まれると報じた。GNLM(9月1日付)も「投票所の安全確保や候補者警護が進行中」と伝え、国営メディアは準備の順調さを強調した。こうした報道は内外に向け、選挙環境が整いつつあることを示す狙いを持つ。

 今回のSCOサミットで採択された共同声明「天津宣言」では、「地域の平和と安定を守ることが共通の責務」とし、「各国の主権を尊重し、内政に干渉しない」原則が再確認された(Business Standard、9月1日付)。声明はミャンマー総選挙に直接触れてはいないが、ミャンマー国営メディアはこれを「選挙準備を支える国際的理解」と解釈して紹介している。

 ただ、国際的な受け止めは分かれる。インドのTimes of India(9月1日付)が、習近平とモディ両首脳が並んだ場面を「多極化の流れを象徴する光景」と表現し、国際秩序の変化を示す場面と報じた。一方、西側主要紙は、今回のサミットを「西側中心の秩序に対する調整の場」として批判的に取り上げている。

 天津サミットは、ミン・アウン・フライン氏にとって総選挙を前に国際舞台で承認を得る場となった。中国は経済と治安、インドは透明性と国境安定、ロシアは軍事と経済協力を軸に関与を深め、ミャンマーはそれぞれの思惑を巧みに取り込みながら、選挙準備を国際的枠組みに結び付ける姿勢を示したといえそうだ。

(ミャンマー総合研究所 宮野弘之 )