202508.19
ニュース解説

ミャンマー総選挙、12月28日から段階的に開始へ

330区画を基盤に比例代表導入、新制度と各国の注視

 ミャンマー連邦選挙委員会は18日、国営テレビMRTVを通じ、2025年12月28日に総選挙の第一段階を開始すると発表した。2021年2月の軍事政権発足以降、初めての全国規模選挙であり、治安・経済・国際協力など多様な課題を抱える中、複数の段階を経て実施される異例のプロセスとなる。

 新たに発表された選挙区割りでは、下院にあたるPyithu Hluttaw(人民代表院)には330の小選挙区が設定された。上院のAmyotha Hluttaw(民族代表院)には84の地域別小選挙区に加え、26の比例代表区(PR)が設けられ、合わせて110選挙区となる。州・地域議会では322の小選挙区と42の比例代表区、さらに29の民族代表区が設置される計画である。

 従来の単純小選挙区制(FPTP)に加え、比例代表制を導入することで多様な地域・勢力の代表性を確保する狙いがあるとされる。ただし各議院には依然として議席の25%が国軍任命枠として確保されており、軍の政治的影響力は温存されている。制度変更により軍政支持派の政党が優位に立つとの見方も出ている。

 選挙委員会によれば、現在55の政党が登録を完了し、このうち全国規模で候補を擁立できるのは9政党に限られる。一方、かつて最大与党であった国民民主連盟(NLD)は、指導者アウン・サン・スー・チー氏の拘束や新制度への不満を理由に参加を見送る姿勢を崩していない。ほかの民主派政党や一部の少数民族政党も、制度変更や治安環境を理由に不参加を表明している。

 治安の不安は依然として選挙の行方を左右する。各地で衝突が続く中、候補者や投票所の安全確保は最重要課題とされている。ミン・アウン・フライン国軍総司令官(臨時大統領・国家治安および平和委員会議長)は「投票所の警備を徹底する」と指示し、軍・警察は特別態勢を敷く方針だ。段階的投票方式の採用も、こうした安全確保を優先する現実的な措置とみられる。

 透明性を確保するため、国内の市民団体や宗教団体による監視活動が許可される方向で調整が進んでいる。ASEAN諸国の一部は監視団派遣を検討しており、タイやインドネシアは「選挙の透明性は地域安定の基盤」と強調。欧州連合や国連も選挙への関心を示し、国際監視団の受け入れに向けた協議が続けられている。

 経済的状況は厳しい。国際通貨基金(IMF)は2025年のGDP成長率を1.9%、インフレ率を30%と予測。アジア開発銀行(ADB)も成長率を1.1%と低水準に見積もる。内戦状態と物流混乱が政策安定を阻み、食料や燃料価格の上昇、電力不足が市民生活を直撃している。中央銀行は統一QRコード決済「MyanmarPay」を導入し金融電子化を進めているが、停電や通信遮断が普及を妨げている。

 加えて、今年3月の大地震では5000人以上が犠牲となり、復旧はなお途上にある。学校再開や仮設住宅整備など人道的課題が山積し、行政能力の真価が問われている。

 各国の対応も分かれる。中国は積極的に関与しており、14日に雲南省プーアルで開かれた瀾滄江–メコン協力外相会議で王毅外相が「安定と発展」を支持すると表明した。中国は越境犯罪対策や経済回廊の整備、エネルギー協力などを通じ、選挙後も連携を深める構えを見せている。

 タイは国境管理と人道支援を並行して進めており、マレーシアやバングラデシュも難民問題を念頭に関与を続けている。ASEAN全体として、加盟国の安定は地域の安全保障に直結するとの認識が広がっている。

 一方、日本や欧米は慎重な立場を取っている。日本政府は「自由で公正な選挙が実施されることが重要」との立場を表明しつつ、復興支援や人道援助の継続を約束している。欧州連合や米国は、政治犯の釈放や市民参加の保障を求めており、選挙プロセスの透明性が確保されなければ結果を承認しない可能性を示唆している。こうした姿勢は今後の国際的承認や制裁措置に直結し、ミャンマーの外交的立場にも影響を与える。

 宗教施設の許認可や行政判断といった日常的課題も顕在化しており、市民生活の安定と公共サービスの透明性が選挙後の政権に求められている。

 12月28日から始まる総選挙は、単なる議会選出を超えて、治安、経済、国際協力、社会復興を連携させる重要な機会として位置づけられる。NLDなど主要政党の不参加、国際社会の分かれた対応という不確定要素を抱えながらも、複数段階の投票方式と比例代表制の導入という新制度下での選挙が、2026年以降のミャンマーの進路を決定づけることになる。