202509.15
ニュース解説

インド、資源確保を加速 ミャンマーを含む多角的戦略と国際協力

 世界のレアアース市場が不安定さを増す中、インドが供給源の多様化に向けて動きを加速させている。電気自動車(EV)や再生可能エネルギー機器に不可欠な重希土類の安定調達は産業政策の柱となり、政府は国内供給体制の整備と国際的な協力を並行して進めている。ロイター通信(9 月 10 日付)は、インド政府が国営 Indian Rare Earths Limited(IREL)と民間 Midwest Advanced Materials に対し、ミャンマー北部で鉱石サンプルを取得するよう指示したと報じた。サンプルは国内研究所で分析され、輸入ルートの可能性が検討されている。

 供給不安は産業界にも直撃している。タイムズ・オブ・インディア(9 月 9 日付)によると、中国が輸出規制の一部緩和を発表したものの実際の出荷は再開されず、インドの自動車メーカーは EV の生産計画を縮小した。工場関係者は「在庫が尽きかけている」と述べ、逼迫感を示している。ロイター(9 月 8 日付)は、中国の 8 月輸出が前月比で3.4%減少したと伝えており、供給の不安定さは解消されていない。

 インド政府は国内資源開発の拡大に踏み出した。エコノミック・タイムズ(8 月 31 日付)は、国家クリティカルミネラルミッション(NCMM)が総額 3.43 兆ルピーを投じ、2030 年度までに 1200 件の探査を実施する計画だと報じた。地質調査局(GSI)が未開発鉱床の調査を主導している。さらに 8 月には鉱山鉱物開発規制法(MMDR 法)が改正され、24 種類の鉱物を中央政府のオークション対象とする制度が導入された(DDNews、8 月 7 日付)。これにより、資源開発に民間企業が参入しやすくなり、調達網の整備が進むと見込まれている。


 国内製造力の強化も重点とされている。重工業・鋼鉄大臣 H.D.クマラスワミーは「輸入依存を減らすため国内磁石産業を育成する」と述べ(The Times of India、9 月 11 日付)、政府は e-waste や廃バッテリーから年間 4 万トンを回収する 1500 億ルピー規模の制度も承認した(The Times of India、9 月 5 日付)。さらにロイター(9 月 9 日付)は、インド企業が磁石を使わないリラクタンスモーターを開発中で、商用化を 2029 年より前倒しする可能性があると報じた。こうした技術開発はレアアース依存を緩和する手段として注目されている。
 ただし、ミャンマー北部の資源調達には課題も多い。New Security Beat(8 月発表)は、2017 年から 2024 年に中国へ輸出されたレアアースが 29 万トン以上、総額 42 億ドルに上ったと報告した。ロイター(3 月 27 日付)は、カチン独立軍(KIA)が鉱石輸出に課税を行い、既存在庫を中国に供給していると伝えた。採掘拡大に伴う環境破壊や住民の健康被害は深刻で、Economic Times(3 月報道)も国際的な懸念を指摘している。こうした状況でインドが調達に踏み込むことは、外交的にも環境的にも難しい判断を伴う。

 国際協力の枠組みも広がりを見せる。American Chemical Society の業界誌 C&EN(8 月号)は、米印が廃バッテリーや鉱滓からレアアースを抽出する技術を共同研究していると報じた。日本は 8 月末にインドと「クリティカルミネラル協力協定(MoC)」を締結し(DD News)、精製や製造での連携、第三国での投資を検討している。エコノミック・タイムズ(8 月 30 日付)は、トヨタ通商など日本企業がアンドラ・プラデーシュ州で精製事業への参画を模索していると伝えた。米日との協力は、インドが供給網を多角化するうえで重要な柱となっている。

 中国の動向も依然として市場に影響を与える。ロイター(9 月 8 日付)が伝えたように輸出量は 8 月に一時減少したが、1~8 月累計では前年同期比 14.5%増加している。エコノミック・タイムズ(9 月 12 日付)は、中国企業がミャンマー武装勢力との協定を通じて原料を確保し、環境や地域住民への影響を代償に供給を維持していると批判した。こうした中で注目を集めたのが、エコノミック・タイムズ(9 月 13 日付)の論説「Why India Should Align With China」である。論説は、エネルギー、モビリティ、人工知能、兵器技術の四分野で中国が優位にある現実を示し、インドが完全な排除ではなく選択的協力を戦略に取り込む必要性を指摘した。産業界からは「現実的な提案」との声も上がり、安全保障上の懸念から否定的な意見も出ている。国家戦略をどう舵取りするかが、政策議論の焦点になりつつある。

 インドが取り得る選択肢は単純ではない。国内探査やリサイクルを通じて自給率を高め、ミャンマーなど第三国からの調達を組み合わせ、さらに米日との協力を拡充する。こうした多層的な取り組みを進める中で、中国の存在をどう位置付けるかが現実的な課題となっている。外交上のリスクや環境問題、国際世論への対応を見据えながら、供給網の安定を図ることが求められている。

 レアアースをめぐる動きは、産業政策にとどまらず国際政治に直結している。自動車や電子機器、再生エネルギー分野を支える資源は、今後の経済成長と安全保障の行方を左右する。ミャンマー北部の鉱石は地域社会に環境負荷を与えながらも、インドにとっては自立を進めるための手段であり、米日には供給多様化の重要な要素である。各国の政策と協力関係の進展が、今後の市場構造を決定づけることになる。