深海に眠る推定2800億ドル
ミャンマー沖109兆立方フィートの天然ガス資源が浮上
ミャンマー政府は2026年6月、タニンダーリ沖とエーヤワディー沖で合計最大109兆立方フィート(TCF、天然ガス埋蔵量の単位で1TCFは約283億立方メートルに相当)の天然ガス資源が見込まれると発表した。事業を主導するカナダ系企業CFGエナジーは同年9月の掘削開始を計画している。
同社を率いる申宋凝会長は中国系カナダ人の実業家であり、事業の運営拠点はシンガポールに置かれている。折しもミン・アウン・フライン大統領の訪中初日と重なった発表であり、中国は同訪問時の共同声明で既存の中国・ミャンマー油ガスパイプラインの活用と持続可能なエネルギー協力の探求を明記し、深海ガス田を新たな供給源として位置づける姿勢をにじませている。CFGの資本・人脈構造と中国のエネルギー戦略がどのように結びつくかは、今後の開発を見るうえで重要な視点となる。
巨大ガス資源の可能性――20年を経て再評価されたM15鉱区

ミャンマー情報省の6月15日の発表によると、タニンダーリ沖の対象海域はブロックM15を含む可能性が高いとみられる。同省の発表に先立ち報じた、ニュースサイト 「イラワジ(The Irrawaddy)」(26年6月15日付)によれば、M15はアンダマン海に位置し面積は約1万3,480平方キロメートルに及ぶ。カナディアン・フォーサイト・グループのプレスリリース(15年3月30日付)も同様の鉱区規模を示している。隣接するイェタグン・ガス田(M5・M6)の推定埋蔵量が4.9TCFであることを「ミャンマー・ビジネス・トゥデー」(15年4月8日付)が伝えており、これを踏まえると今回の公表規模は桁違いの水準だ。
同鉱区では2005年に最初の試掘井が掘削されたが、十分な深度に達しないまま作業を終えたと、カナディアン・フォーサイト・グループの自社サイトは説明している。その後の3次元弾性波探査による地下構造の再評価を経て、大規模ガス資源の存在可能性が指摘されるようになった。
CFGグループの申宋凝会長は2017年、「ミャンマー・インサイダー」のインタビューに対し、20TCFを超える資源ポテンシャルがあり、ミャンマーの電力需要を今後20年まかなえる規模だと説明した。25年10月には同会長が業界誌「アップストリーム・オンライン」に対し、潜在的な回収可能資源量として94.6TCFとの事業者推計を示した。
ただこの数値も独立した第三者機関による検証は行われておらず、現時点ではミャンマー政府と事業者の報告に基づく推計にとどまる。CFGが17年に作成した内部資料は当時の天然ガス価格を前提に資源価値を約2,800億ドルと試算していたと、BBCビルマ語放送(25年12月)および「イラワジ(The Irrawaddy)」(26年6月15日付)が引用しているが、市場価格や回収率の変動により実際の評価は大きく変わりうる。
MOGEへの米制裁とカナダ法の隙間
ブロックM15のPSC(生産物分与契約)はテイン・セイン政権期の15年3月30日、ミャンマー国営石油・天然ガス公社(MOGE)とCFGエナジー(CFG Energy Pte. Ltd.)の間で締結された。
CFGプレスリリース(同年3月30日付)によると、権益はCFGエナジーが80%を保有してオペレーターを務め、残る20%をオーストラリア系TRGとミャンマーKMAグループ傘下センチュリー・ブライト・ゴールドが分け合う。親会社はカナダ・カルガリー拠点のカナディアン・フォーサイト・グループだが、事業主体はシンガポール登記の法人だ。申会長は中国系カナダ人の実業家である。これらの事業構造は「イラワジ(The Irrawaddy)」(26年6月15日付)および、「Mizzima英語版」(26年6月2日付)が伝えている。
米財務省外国資産管理局(OFAC)は23年10月31日、MOGEがミャンマー国軍にとって最大の外貨収入源だと明記し、MOGEへの金融サービス提供を禁じる指令を発動した。ただ、「Mizzima英語版」(26年6月2日付)は、CFGエナジーがMOGEとの契約を維持することを禁じるカナダの法律は存在せず、事業はカナダの法的管轄下で完全に合法だと報じた。国際人権団体ジャスティス・フォー・ミャンマー(JFM)は25年以降、カナダ・英国・オーストラリアに追加制裁を求めているが、26年5月末時点でいずれの政府も新たな措置を公表していない。欧米の制裁体制の整合性が問われる構図だ。
中国・タイ・インドの綱引き――輸出先選択がミャンマー外交を規定
NP News(25年12月8日付)が伝えたところでは、CFGエナジーは26年9月から3本の探鉱井掘削を開始し、27年末の初回生産を目標とするという。Mizzima英語版(26年6月2日付)は、CFGエナジーがミャンマー最大の未開発オフショア・ガスブロックの掘削準備を進めていると報じた。実現すれば、21年の非常事態宣言以降で初めて本格生産に移行する深海ガス田となる。
商業生産が実現した場合、中国・ミャンマーパイプライン(チャウピュー~昆明)への接続による対中供給、タイとの既存供給網の拡充、LNG化による第三国輸出という三つの選択肢がそれぞれ異なる外交的含意を持つ。ミン・アウン・フライン大統領の訪中(26年6月15〜19日)に合わせた今回の発表は、中国とのエネルギー協力深化の文脈に意図的に置かれたものとみられる。中国外務省・ミャンマー外務省が同時発表した共同声明(6月17日付)は、中国・ミャンマー油ガスパイプラインを有効活用し持続可能なエネルギー協力を探求すると明記した。稼働率が設計能力を下回る既存パイプラインにとって、M15は新たな供給源として高い関心を集めている。
現段階の資源量はあくまで政府と事業者による推計値であり、今後の追加探鉱による実証が不可欠だ。中国資本の参入動向、各国制裁の行方とあわせ、この深海資源開発はミャンマーのエネルギー外交を占う試金石となる。
(ミャンマー総合研究所主任研究員 宮野弘之)