202607.12
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サイバーシティ開発へ外資呼び込みを本格化

ヤダナボン1400エーカーでEOI募集――構想20年、露中の系譜を背負う3度目の挑戦

 「ミャンマー版シリコンバレー」構想が再始動。ミャンマーのヤダナボン・サイバーシティ・プロジェクト監督委員会は、マンダレー管区ピンウールィン県のマンダレー~ラーショー街道21マイル地点に位置する対象区域約2200エーカーのうち約1400エーカー(約567ヘクタール)を、ソフト産業(Soft-based Industry)を基盤とする拠点として民間投資により開発するため、国内外企業を対象とする関心表明書(EOI)の募集を開始した。国営紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー(GNLM)が7月11日伝えた。提案書式の販売は7月10日から8月10日までネピドーの都市住宅開発局で行われ、提出締め切りは8月25日午後4時。問い合わせは建設省の同監督委員会が受け付ける。

■ 構想20年、3度目の仕切り直し

 ヤダナボン・サイバーシティは、マンダレーの東約67キロ、避暑地ピンウールィン近郊に計画された総面積約1万エーカー(約4050ヘクタール)のICT(情報通信技術)拠点である。2006年6月にマスタープランが策定され、2007年12月に一部稼働を開始した。国内通信の基幹拠点「ヤダナボン・テレポート」を擁し、2010年には敷地内に工科大学(ヤダナボン・サイバーシティ工科大学)が開学。「ミャンマー版シリコンバレー」を掲げた国家プロジェクトとして出発した。筆者も2008年にヤダナボン・テレポートを、2015年には敷地内の工科大学を視察・調査したことがある。

 2008年6月には内外12社への投資許可が発表され、総投資額は2200万ドルとされた。当時の報道によれば、外国企業としてタイのシン・サテライト、中国のZTEとアルカテル上海ベル、マレーシアのIPテル、そしてロシアの通信課金システム大手CBOSSが名を連ねた。しかし電力・通信インフラの制約などから開発は停滞し、2015~2020年の前政権期には「新マンダレー・リゾートシティ」構想へと転換され、サイバーシティとしての事業は事実上停止した。2018年に実施されたEOI募集には日本、中国、韓国の企業を含む39社が応募したが、その後の展開は限定的だった。

 再始動が明確になったのは2025年12月である。ミン・アウン・フライン大統領代行(当時)が現地を視察し、サイバーシティ事業を再開して内外の投資家を招くとともに、AI(人工知能)技術の開発や電子製品製造の拠点化を進める方針を表明した。投資家募集は建設相を委員長とする監督委員会が主管しており、イラワジによると同委員会は2026年5月中旬にも会合を開き、投資誘致策を協議している。2月27日にはヤダナボン・テレポートビルで「デジタル・ミャンマー・フォーラム」が開催された。今回のEOI公募は、こうした一連の再始動プロセスを具体化する初の大型投資家募集と位置付けられる。

■ ロシアの系譜――創設期の参画から情報セキュリティ協力まで

 ロシアとの接点は構想の初期に遡る。前述の通り、2008年の投資許可企業にはロシアのCBOSS社が含まれていたと伝えられており、同プロジェクトは発足時からロシア企業の関与が報じられた数少ないミャンマーの国家事業の一つだった。

 この系譜は新政権下で急速に太くなっている。イラワジによると、ミョー・テイン・チョー科学技術相は2026年5月18日から22日まで、ロシア・ニジニ・ノヴゴロドで開かれた「第11回ロシア産業デジタル化フォーラム」に出席した。ロシアが量子技術拠点「クォンタム・バレー」構想の中核と位置付けるネイマルク大学を視察し、ヤダナボン・サイバーシティとの類似性に言及した上で、人材育成分野での知見共有を要請したという。米誌ディプロマットは6月、ミャンマーが停滞したサイバーシティ構想の再生に向けてロシアの支援を求めていると分析している。

 両国の技術協力は制度面でも進む。国営メディアによると、5月末にロシアで開かれた第1回国際安全保障フォーラムの際、両国は「共同情報セキュリティセンター設立に関する覚書」と「国際情報セキュリティ分野協力実施計画(2026~2029年)」に署名した。2月にはロスコスモス(ロシア国営宇宙公社)のバカノフ総裁が訪緬して衛星・宇宙技術協力を協議し、6月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF2026)にはニョー・ソー副大統領が出席するなど、露緬協力は軍事分野からIT・宇宙・情報セキュリティへと広がっている。今回の公募にロシア企業が応じるかどうかは、対露制裁環境下での決済・技術移転の制約も絡み、注目点の一つとなる。

■ 中国の視線――CMEC回廊と詐欺対策の交錯

 一方、中国も創設期からの当事者である。2008年の参画企業には中国のZTEとアルカテル上海ベルが含まれていた。しかも今回公募対象となる用地はマンダレー~ラーショー街道沿いに位置する。同街道は中国ミャンマー経済回廊(CMEC)の陸路軸であり、構想中のミューズ~マンダレー鉄道の回廊とも重なる地政学的要衝である。

 2026年6月15日から19日にかけて行われたミン・アウン・フライン大統領の訪中では、科学技術、技術移転・知識共有などを含む18の協力文書が署名され、共同声明にはCMECの推進とチャオピュー深海港、ミューズ~マンダレー鉄道など主要回廊事業を着実に進めることが明記された。中国税関総署によると、2025年の二国間貿易額は194億ドルと前年比19.1%増で、中国はミャンマー最大の貿易相手国・投資供給国であり続けている。

 ただし中国側の関心は投資機会にとどまらない。習近平国家主席は首脳会談で通信詐欺・オンライン賭博・麻薬密輸への断固たる取り締まりの継続を求め、ミン・アウン・フライン大統領も国境地域の安定確保と併せて全面協力を表明した。「サイバーシティ」を冠する国家事業だけに、中国が重視するオンライン犯罪対策との整合性を示し、透明性の高い事業運営を担保できるかが、中国企業を含む外資の参画判断を左右するとみられる。

 2018年の前回EOIには39社が応募した実績があるが、当時と投資環境は大きく異なる。電力供給、通信インフラ、技術人材の確保、欧米の制裁環境という構造的課題は残されたままだ。創設期から関与してきた露中両国の企業がどう動くか、そして第三国からの応募がどこまで広がるか。構想開始から20年を経た「ミャンマー版シリコンバレー」の3度目の挑戦は、新政権の投資誘致力を測る試金石となる。応募状況とその後の事業者選定の透明性が問われることになる。

(主任研究員 宮野弘之)