202606.07
New ! 情勢レポート

大統領、初外遊でインド公式訪問

安全保障・貿易・資源で協力確認

 ミャンマーのミン・アウン・フライン大統領は6月3日、インドへの公式訪問を終えた。訪問期間は5月30日から6月3日までの5日間で、大統領就任後初の外国訪問となった。今回の訪問では、国境地帯の安全保障、貿易決済、物流網、エネルギー、鉱業、農産加工など幅広い分野が議題となった。共同声明で新たな大型契約の締結は発表されなかったが、インドがミャンマーとの実務的な関与を維持し、経済・安全保障両面の協力を拡大する方針が示された。

安全保障協力の確認

 大統領は訪問冒頭の5月30日、ボードガヤを訪れ、マハーボーディー寺院などで礼拝を行った。両国の仏教上の絆と人的つながりを象徴する行程として位置付けられた。6月1日にはハイデラバード・ハウスでモディ首相と会談し、ドラウパディ・ムルム大統領、スブラマニヤム・ジャイシャンカル外相、アジット・ドバル国家安全保障顧問とも個別に会談した。代表団には大統領府、外務、財務・歳入、農業・畜産・灌漑、産業・中小企業開発の各担当大臣と中央銀行総裁が参加した。

 安全保障面では、モディ首相がミャンマーの主権と領土保全への支持を表明した。両国は、いずれかの国の領域が相手国の安全保障上の利益に反する活動に利用されることを防ぐ必要性を確認し、ミャンマー側は自国領域をインドの安全保障に反する活動に利用させないと改めて表明した。一方、モディ首相はミャンマーの内戦がインド北東部に与える影響についても懸念を伝え、軍事行動がインド側国境の民間人を傷つけないよう求めた。インド外務省によると、モディ首相はミャンマーからインドへの難民流入問題も提起した。両首脳はサイバー犯罪と人身売買への対応も協議し、インド外務省はこの18ヶ月でスキャムセンター(詐欺拠点)からインド人国民2,400人以上を救出したと説明した。

 共同声明では、インドの「近隣諸国優先政策」と「アクト・イースト政策」に加え、「MAHASAGAR(Mutual and Holistic Advancement for Security and Growth Across Regions)」が明記された。地域横断的な安全保障と成長を掲げるインドの政策枠組みである。インド側は、カラダン複合輸送プロジェクトとインド・ミャンマー・タイ三国間高速道路について、完成に向けて緊密に協力する方針も示した。両事業は、インド北東部・ミャンマー・東南アジアを結ぶ物流基盤として位置付けられている。

貿易・資源・投資の課題

 今回の訪問では、インドルピーとミャンマーチャットによる直接決済の拡大が確認された。ただし、この仕組みは今回新たに合意された制度ではない。2024年5月に運用を開始しており、共同声明はその後の取引量が着実に増加していることを評価したうえで、利用をさらに促進する方針を確認した。米ドルなど第三国通貨への依存を抑え、貿易決済を円滑化できるかが今後の焦点となる。なお、訪問に先立ち、NUG(国民統一政府)のジン・マー・アウン外相は5月28日付でジャイシャンカル外相に書簡を送り、訪問への懸念を表明した。デリーでの抗議活動はインド当局により阻止された。

 国営紙『Global New Light of Myanmar(GNLM)』は6月4日付紙面で、ムンバイのタージ・マハル・パレス・ホテルで開催されたミャンマー・インド・ビジネス対話を報じた。インド外務省は2025~2026年度の二国間貿易額を約19億5,000万ドルと発表しており、GNLMが掲載した大統領の発言は「20億ドル超」としている。大統領は第一段階で30億ドル、第二段階で50億ドルを目指すと語った。ただし、これらの目標額は両国の共同声明には記載されていない。GNLMが報じた大統領発言として扱う必要があり、達成期限も現時点では確認できない。

レアアースも議題に

 共同声明は、貿易・投資協力の対象として農産加工、石油、エネルギー、鉱業を明記した。大統領は、鉱物資源を未加工のまま輸出するのではなく、国内で加工し付加価値を高めた製品として輸出する方針を示した。エネルギー分野では、大統領がグレーター・ノイダにあるNTPCエネルギー技術研究連合(NETRA)を視察し、クリーンエネルギー・エネルギー効率・再生可能エネルギーの統合・電力網の強靱化に関する研究開発を視察した。モディ首相は、ミャンマー人学生を対象とするメコン・ガンジスICCR奨学金を2026年以降、現行の36名から100名に拡大すると表明した。

 レアアースをめぐっては、共同声明に記載はないものの、モディ首相のX(旧Twitter)投稿で首脳協議の対象として明示された。協議対象となったことは確認できるが、鉱区、鉱種、採掘企業、投資額、供給量、契約条件、供給網構築に関する合意は今回公表された資料からは確認できない。

合意から実施へ―問われる推進力

 今回の訪問は、欧米諸国がミャンマーの国際的孤立を図る中、インドが安全保障・物流・貿易決済・エネルギー・資源協力を組み合わせた実務的な枠組みで関与を維持する姿勢を改めて示したものとみられる。初外遊先として中国ではなくインドを選んだことは、対中依存の軽減を図るミャンマー側の戦略的計算の表れとみる向きもある。大半のアナリストは訪中が先と予測していたが、習近平が主要首脳との会談に注力していたことなどから、訪中は実現しなかったとされる。共同声明は複数の協定・覚書について協議が続いていると記載するにとどまり、新たな大型契約の締結は発表していない。ルピー・チャット決済の利用額がどこまで増えるか、貿易目標に期限と実施計画が示されるか、カラダン複合輸送プロジェクトと三国間高速道路が進展するか、鉱業・エネルギー協力が具体的な投資案件に結び付くか。レアアース協力が絵に描いた餅に終わるかどうかは、今後の実務交渉の行方にかかっている。

(主任研究員 宮野弘之)

【参考資料】
・インド首相府、2026年6月1日、「India-Myanmar Joint Statement during the Official Visit of the President of Myanmar to India」
・ミャンマー大統領府省庁、2026年6月2日、「Myanmar-India Joint Statement during the Official Visit of the President of Myanmar to India (30 May – 3 June 2026)」
・『Global New Light of Myanmar』、2026年6月4日、「Myanmar Invites Indian Investment Across Key Sectors」