202606.14
New ! 情勢レポート

国家安全保障局再編の意味

治安調整機関から「大統領府主導の国家安全保障ハブ」へ

 ミャンマーで国家安全保障局(NSB=National Security Bureau)が再編された。今回の再編は、単なる人事や組織名称の変更ではない。旧NSBが国軍・内務・軍事保安を中心とする治安調整機関であったのに対し、新NSBは大統領府を中核に、国防、内務、外務、財務、国境、移民・人口、運輸・デジタル・通信分野までを横断的に束ねる国家安全保障の実務ハブへと性格を広げたとみられる。

新NSBの構成

 NSBは大統領府命令第46/2026号により、2026年4月21日に再編された。新体制では、大統領が議長、副大統領(1)が第一副議長、国軍総司令官が第二副議長、軍事保安局長が書記を務める。構成員は13人で、国防、内務、外務、財務・歳入、国境、移民・人口、運輸・デジタル開発・通信などの関係閣僚が含まれる。

 これまでのNSBは、2021年2月9日に設置された10人構成の機関であり、国軍総司令官が議長、内務相が書記、軍事保安局長が共同書記を務めていた。旧NSBの軸は、国軍総司令官、内務省、軍事保安局であり、機能の中心は国内治安、情報、警察・保安系統の調整に置かれていた。

議長の移行が意味するもの

 今回の再編で最も重要な点は、議長が国軍総司令官から大統領に移ったことである。これは、国家安全保障の実務調整を、大統領府を頂点とする統治機構の中に組み込む動きと位置づけられる。もっとも、国軍総司令官は第二副議長として残り、軍事保安局長も書記を務めており、国軍・情報系統の影響力が後退したというより、大統領府の下に再配置されたとみるのが妥当である。

 新NSBの機能は、治安対策にとどまらない。財務・歳入、移民・人口、国境、通信・デジタル分野が加わったことは、安全保障の対象が、武装勢力対応や都市治安だけでなく、国境管理、資金流通、人口登録、通信インフラ、対外関係にまで広がったことを示している。現在のミャンマーでは、国境貿易、外貨管理、オンライン犯罪、通信統制、移民・人口把握、地方治安が相互に結びついており、NSB再編はこうした複合的課題に対応する制度設計といえる。

国家安全保障顧問と国家顧問評議会

 NSB再編の翌日となる4月22日には、大統領府命令第47/2026号により、ティン・アウン・サン氏(U Tin Aung San)が国家安全保障顧問に任命された。同氏の任務は、大統領および大統領府に対し、国家安全保障問題について多角的な検討、評価、提言を行うこととされる。新NSBが省庁横断の実務調整機関であるのに対し、国家安全保障顧問は大統領府への政策助言を担う構図であり、両者は機能を分けた二層構造を成しているとみられる。

 また、4月10日には国家顧問評議会も設置されており、連邦の安全保障、法秩序、国際関係、和平、法整備に関する調整・助言を行うとされる。これらを合わせて見ると、新政権は大統領府周辺に、政策助言、治安調整、法秩序、国際関係を扱う複数の制度的装置を配置した形となっている。NSB再編は、その中でも最も実務的な安全保障調整機能を担う位置づけといえる。

権限の射程と政策継続性

 一方で、NSBを万能の最高意思決定機関とみるのは適切ではない。公式に確認できる機能は、国家安全保障事項の実施強化、関係省庁との調整、国家の状況に応じた安全保障対応であり、直接の軍事作戦指揮や司法手続き、捜査権限が明示されているわけではない。

 今回の制度変更は、ミン・アウン・フライン大統領が国軍総司令官から大統領へ移行した後も、安全保障政策の中枢に関与し続けるための仕組みとも読める。新NSBで国軍総司令官が第二副議長に位置づけられたことは、大統領府と国軍司令部を制度的に接続する意味を持つ。

 もっとも、新NSB、国家安全保障顧問、国家顧問評議会という三つの機構が、いずれも大統領府周辺に並立する形となったことは、屋上屋を重ねる制度設計との見方も生まれかねない。各機構の所掌が国家安全保障、政策助言、法秩序・国際関係といった形で形式上は分かれているものの、実務上の調整・助言機能には重なりが見られ、責任の所在や意思決定の優先順位が判然としにくくなる可能性も指摘できる。今後、これら三機構の関係がどのように運用面で整理されるかも、注視すべき点である。

 NSB再編の本質は、旧来の治安調整機関を「大統領府主導の統合安全保障機関」に格上げした点にある。旧NSBは、国軍・内務・軍事保安を中心に国内治安を調整する装置であった。新NSBは、そこに外交、財政、国境、人口、通信・デジタルを加え、国家運営全体を安全保障の観点から統合する仕組みへと変わったとみられる。

 今後の焦点は四つある。第一に、国境地域や主要都市の治安対応でNSBがどこまで実効性を持つか。第二に、通信・デジタル分野を通じた情報管理がどのように運用されるか。第三に、移民・人口データが治安政策や行政管理とどの程度連動するか。第四に、財務・歳入部門を通じた資金流通管理が、外貨・貿易にどのように影響するかである。

 NSB再編は、ミャンマーの統治構造が「非常時対応型」から「制度化された安全保障統合型ガバナンス」へ移行しつつあることを示すサインといえる。新政権下の政治プロセスを見るうえで、NSBは国家安全保障顧問、国家顧問評議会と並ぶ中核的な観察対象となる。

(主任研究員 宮野弘之)

本稿の記述(大統領府命令第46/2026号・第47/2026号、新NSB構成・職位、国家安全保障顧問任命)は、Eleven Media、The Star(AP配信)、Myanmar International TV、Global New Light of Myanmar、One News Myanmarの報道による。