202605.11
New ! 情勢レポート

加盟国間の亀裂残したまま「関与」へ

ASEAN外相、ミャンマー外相とのオンライン協議に合意

 東南アジア諸国連合(ASEAN)外相らは5月7日、フィリピン・セブで開かれた第48回ASEAN首脳会議関連会合で、ミャンマーのティン・マウン・スウェ外相とのオンライン協議を「近日中」に実施することで合意した。ミャンマーの政治代表は2021年10月以降、ASEANの首脳・外相級会合への参加を認められず、非政治的代表に限定される運用が続いてきた。外相レベルの接触が実現すれば、約5年ぶりの政治レベル協議となる。ただし、加盟国間の対ミャンマー認識の溝は埋まっておらず、「関与再開」への歩みが和平進展につながるかは見通せない状況だ。 

 AFPが9日に配信した記事によると、フィリピンのマルコス大統領は首脳会議閉幕時の記者会見で、ASEANが5項目合意(5PC)の実施に長年にわたって十分な成果を上げられていないことに加盟国が「フラストレーション」を感じているとした上で、「残念ながら、ミャンマーで何ら進展が見られていない」と述べた。セブでの協議を「ときに感情的な会議だった」と振り返り、「5PCの議論を始めてから世界は何度変わったか、おそらく文脈も少し変化した」との見方を示した上で、アプローチの「微調整」が必要との認識を示した。 

 今回の合意はタイのシーハサック・プーアンケトケウ外相の提案を受けたものだ。タイの外交筋はAFPに対し、シーハサック外相がASEANにミャンマーの外相を会議に招待するよう提案したことを確認し、「ミャンマーへの関与の仕方を変える必要がある」と語った。タイ外務省のマラティー・ナリタ・アンダモ報道官代理によると、提案は「政治レベルでのミャンマーとの関与を目指す議論の出発点」と位置づけられ、加盟国から「前向きな反応」を得たという。 

 ミャンマーでは4月9日に新内閣が承認され、翌10日、ミン・アウン・フライン大統領の就任とともに新政府体制が正式に発足した。就任演説では、ASEANとの「正常な関係回復」に取り組む方針も表明された。ASEANのカオ・キム・フォルン事務局長はロイター通信に対し、「本日、ASEAN外相らがミャンマーとの関与に合意し、ミャンマー外相との仮想会議を極めて近い将来に開催することが明確になった」と述べた。

マレーシアは正面から異議

 合意の一方で、ASEAN内の対ミャンマー認識の溝は深い。マレーシアのモハマド・ハサン外相は7日の記者会見でAFPに対し、「抑圧が続き、自国民への残虐行為もまだ起きている。我々は不快感を覚えている」と述べた。「選挙後にミャンマーで発足した新政府が、我々の定めた5PCに真に従うことを求めている」とも語り、ミャンマーが首脳会議の場に戻るには十分な措置を取っていないとの立場を示した。 

 シンガポール国立大学ISEAS・ユソフ・イシャク研究所のタン・シュー・モン上席研究員はAFPに対し、「このテーマに関するASEANの合意は崩れつつある」と指摘した。一部加盟国には「もう時計を逆に戻せない、前に進もう」という現実主義的な見方が広がっているとし、タイにとってはミャンマーとの国境問題が「緊急の安全保障問題」になっているとの認識を示した。 

 同研究所のシャロン・シー主任研究員は「ASEANがミャンマーに対して持つ唯一の実質的なレバレッジ(テコ)は、首脳会議という大舞台への参加を認めるかどうかという点だ」と述べた。インドネシア、シンガポールはマレーシアと同様の立場とみられる一方、ベトナム・ラオス・カンボジア・ブルネイなどが「どちらにも傾きうる中間グループ」を形成しており、「ミャンマーの復帰に戦略的意義を見いだせば、立場を変える可能性がある」と指摘した。

「1ミリの変化」比大統領が問いかけ

 マルコス大統領は首脳会議の閉幕時、金曜午後のセッションを終えた加盟国が「さらに何ができるか」という問いを抱えて退席したと明かした。政策の小幅な転換でも効果が生まれる可能性があるとし、「パラメーターを1ミリ動かすだけで、すべてが変わることもある」と述べた。人権を犠牲にするものではないとした上で、「加盟国・首脳・各省庁にその『1ミリの転換』が何を意味するかを問いかけている。まだ確定的な答えはないが、必ず全力で取り組む」と語った。 

 今回の第48回ASEAN首脳会議にミャンマーが出席させたのは、外務省次官(常任書記官)レベルの非政治的代表にとどまった。ASEANは2021年以降の首脳・外相級会合で、ミャンマーの政治代表を招かず、非政治的代表に限定する運用を続けており、この枠組みは2021年10月以降、基本的に変わっていない。複数のメディアによれば、タイが提案した7月のASEAN外相会議へのミャンマー参加については一定の支持が集まったという。 

 ASEAN議長声明は、5PCを引き続き主要な参照枠と位置づけつつ、ミャンマーでの暴力、紛争の激化、人道状況の悪化に深い懸念を示した。一方で、ASEAN議長特使による関与の継続や、人道支援の拡大、選挙後の情勢への注視にも触れている。オンライン協議合意が5PCに基づく和平プロセスの再起動につながるかは現時点で見通せず、対話の枠組み設定そのものがASEAN外交の実効性を問う試金石となろう。

(ミャンマー総合研究所 主任研究員 宮野弘之)