202506.27
ニュース解説

岐路に立つミャンマー経済 ──「早期選挙こそが回復の条件」

修復を待つ首都ネピドーの隣町、ピンマナの市街地

 ミャンマー経済はいま、深刻な停滞局面にある。2021年以降の政変による政治の不安定化を契機に、武力衝突が拡大し、経済活動が大きく制約されてきた。世界銀行とアジア開発銀行(ADB)が2025年春に発表した最新の報告書は、現在の厳しい現実を明らかにする一方で、政治的安定が回復すれば中期的な成長の可能性も十分にあるとの見通しを示している。

 世界銀行が2025年6月に公表した「Myanmar Economic Monitor」によれば、2024年度(2024年4月~2025年3月)の実質GDP成長率はマイナス1%と推計されている(World Bank, June 2025)。これは、国内各地での武力衝突、物流網の寸断、電力供給の不安定、輸入規制の強化といった複合的な要因によるものである。加えて、インフレ率も深刻で、ADBの「Asian Development Outlook 2025」では、2025年の平均インフレ率を29.3%、2026年も20%を超える水準で推移すると予測している(ADB, April 2025)。

 物価高騰による実質賃金の目減りは国民生活を圧迫し、貧困率の上昇を招いている。世界銀行は2025年初頭時点での貧困率を32%超と推定し、パンデミック前より700万人以上が新たに貧困ラインを下回って暮らす状況だと報告している(World Bank, June 2025)。

 しかし、世界銀行もADBも、将来の経済回復の可能性を否定してはいない。世界銀行は2026〜2027年度には実質GDP成長率が3%程度に回復するシナリオを示している。前提となるのは、政治的安定の回復と、武力衝突の沈静化による物流網の再建、電力供給の改善、貿易や投資環境の正常化である。これらが実現すれば、経済活動の再開と成長の加速が見込める。

マンダレー市内も地震から復興し、道路には渋滞が戻りつつある

 ADBもまた、電力インフラへの投資、輸入規制の緩和、金融の安定化、社会保障の拡充、教育や職業訓練の再構築などを課題として挙げつつ、こうした改革が進めば内需が刺激され、経済の持続的成長につながるとの見解を示している。特に農業分野は大きな潜在力を秘めている。ミャンマーは肥沃な平地と多毛作を可能にする気候条件を持ち、かつては東南アジア屈指の農業国だった。現在も多くの国民の生計を支える基盤であり、適切な支援があれば生産性の向上と収入の増加が期待できる。

 だが現状では、自然災害による被害、道路や電力インフラの破損、農機や肥料の価格高騰が農業生産を阻んでいる。農村部の住民は不安定な状況から都市や国外への移住を選ぶケースも多く、若年層の教育機会や技能の蓄積が失われつつある。これを防ぐには、農村開発と社会保障の強化が不可欠である。

 世界銀行とADBは共通して、こうした回復シナリオを実現するための前提条件として「政治の正常化」を強調する。包摂的な選挙の実施と国民的合意の形成が必要であり、それによって安全保障環境が改善され、国際社会からの支援や投資の呼び戻しが可能になる。制裁の緩和や解除も、政治の安定化なくしては期待できない。

地震で崩落した旧ザガイン橋。特に地方のインフラの復旧には時間がかかりそうだ

 現在のミャンマー経済は、深刻な停滞と高インフレに苦しむ一方で、農業や中小企業を中心とする回復の芽を秘めている。電力網の整備、物流インフラの修復、社会保障の拡充といった基盤整備が進み、選挙を通じた政治的安定が実現すれば、外国からの援助や投資を呼び込み、経済は持続的な成長路線に戻る可能性がある。

 ミャンマーはいま、戦争と分断の長期化による閉塞を選ぶのか、それとも対話と選挙を通じた和平を選び経済再建を進めるのかという岐路に立っている。世界銀行もADBも、その選択が将来を大きく左右すると強調している。今後数年は、経済の再生と国民生活の改善を実現するための極めて重要な時間となるだろう。

出典

·        World Bank. (June 2025). Myanmar Economic Monitor, June 2025. Link

·       Asian Development Bank. (April 2025). Asian Development Outlook 2025. Link