202508.26
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【提言】今こそミャンマー政策を見直すとき

主体性に欠ける日本外交

 2021年の政変以降、日本政府はミャンマーに対して「民主的プロセスの回復」を求める声明を繰り返してきた。だがその実際の行動は国際機関を通じた人道支援にとどまり、日本自身が独自に外交的判断を下す姿勢は見られない。国際労働機関(ILO)が開始した「生活再建・地域社会回復力強化事業」に日本の社会セーフティーネット基金から資金が拠出されたことは、日本の関与を示す一つの例である。だがこれは2011年に創設された既存制度に基づくものであり、新たに日本政府が主体的に決定したものではない。日本が自らの立場を鮮明に示さず、過去の仕組みに依拠して対応したに過ぎないことを意味している。ここに、日本外交の最大の弱点である主体性の欠如が表れているのである。

 この姿勢は米国に追随していると解釈されることも多い。しかし本質的な問題は依存ではなく、自らの判断を示さないという消極性にある。日本は米国や欧州の動向を参照するが、それを踏まえて独自の立場を形づくることを避け、結果的に「曖昧な沈黙」に陥っている。これはミャンマーに限らず、近年の外交全般に共通する傾向であり、決定を先送りすることで責任を回避し、国際社会における存在感を自ら希薄化させているのである。

 2025年1月に再発足したトランプ政権は、対ミャンマー政策を微妙に変化させている。従来の制裁一辺倒ではなく、資源外交や安全保障上の取引を視野に入れる柔軟な要素を含み始めている。民主化支援の原則を放棄したわけではないが、実利を優先する現実的対応を模索する姿勢が見て取れる。これは国際社会全体の潮流にも合致しつつある。欧州諸国も一様に制裁強化を叫ぶのではなく、限定的接触を通じて情勢を安定させる方策を検討し始めている。

 日本はこうした変化をただ眺めるのではなく、自らの行動に転換する契機として活かすべきである。他国が硬直した二項対立を乗り越え、柔軟な現実対応へと踏み出している時に、日本だけが主体性を欠いた姿勢を続ければ、国際社会の信頼を失いかねない。

総選挙に積極関与を

 2025年12月に予定されている総選挙は、ミャンマーの将来を決定づける重要な節目である。治安の不安定さや政治的制約から、完全に自由で公正な選挙を実現するのは難しいだろう。それでも選挙は新しい政治秩序を形成する契機となる。日本はこの機会にこそ積極的に関与し、国際的評価に委ねるのではなく、自ら選挙監視団を派遣し、選挙管理や技術的支援を提供すべきである。選挙の透明性を高める努力に直接関与することで、日本は国際社会における「傍観者」から「保証人」へと立場を変えることができる。主体的な関与を示すことは、アジアにおける信頼の回復につながり、同時に日本外交の存在感を取り戻すことにつながる。

 主体性を欠いた姿勢は外交だけにとどまらない。国内の政策運用にも矛盾を生じさせている。その典型例が在日ミャンマー人に広がる「特定活動」在留資格である。本来これは特殊事情に応じて一時的に認められる例外的措置であった。ところが現実には、留学や技能実習といった正規の在留資格を持っていた者が申請し、外務省が安易に承認を繰り返した結果、制度は事実上の抜け道として機能するようになった。学業や技能習得を目的とした在留が、本来の趣旨から逸脱し、滞在継続や就労の手段として利用される事例が増加している。

 この状況は受け入れ企業や教育機関に混乱をもたらしている。人材育成や交流の枠組みが揺らぎ、長期的な計画を立てにくくなっているのである。問題の根源は難民認定制度の硬直さにあるのではなく、外務省が主体性を持たず安易に制度を運用してきたことにある。外交的に判断を下さない姿勢が、国内制度の乱れとして跳ね返り、日本の信頼性を揺るがしている。これもまた主体性の欠如がもたらした弊害である。

 日本外交が進むべき方向は明らかである。まず他国の評価を待つのではなく、自らの立場を明確に打ち出すことである。ただし、主体性ある取り組みには柔軟性が伴わなければならない。国際情勢は固定的なものではなく、米国の政策もまた変化している。トランプ政権が従来の制裁一辺倒から現実的対応へと歩みを変えている今こそ、日本は柔軟な判断を示し、自らの行動に結びつけるべきである。硬直した原則主義にとらわれるのではなく、国益と人道を両立させる形で現実的かつ主体的な政策を展開することが、日本外交の責務である。

アフリカよりアジアに責任

 さらに重要なのは外交資源の優先順位である。日本はTICADを通じてアフリカ支援に尽力してきた。これは国際社会における貢献として高く評価されるものであり、否定されるべきではない。しかし外交資源は無限ではなく、優先すべきは地理的にも歴史的にも日本と直結するアジア地域である。アジアにおいて主体性を確立しないまま遠方の地域に力を分散させれば、日本は自国の信頼性を損ねることになる。アフリカ支援の意義を認めつつも、まずアジアで責任を果たすことが先決である。

 日本外交に求められるのは、他国に依存することではなく、自ら判断し柔軟に行動する主体性である。ミャンマーをめぐる情勢は、日本がこの姿勢を取り戻す試金石となる。アジアを基盤に据えた積極的関与こそ、日本が国際社会に示すべき道であり、国益を守り、国際社会における信頼を確立する唯一の方法である。

(ミャンマー総合研究所 宮野弘之 )