ミャンマー総合研究所
【提言】スマートカードをめぐる混乱、早期解消を
ミャンマーの海外労働許可証「スマートカード(OWIC)」を巡る混乱が深刻化している。2025年2月第2週に発給が突如停止されて以来、手続きは滞る一方で再開後も混迷を極めている。4月末時点で許可待ちは約1万人に達し、週当たり処理件数は100件程度と低迷が続いている。

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3月末にマンダレー近郊で発生した地震はネピドーのカード発行センターにも大きな打撃を与えた。停止後も郵送での申請に伴う書類不備が相次ぎ、5月時点で192件が再提出待ちとなっており、再提出による時間と労力の浪費が問題視されている。
さらに、制度変更により送り出し機関ごとに「月15名」という厳格な発給枠が設けられた。これにより、たとえ申請が通っても出国ができない申請者が急増しており、日本向けは最大15名、タイ向けでも50名程度と制限されている。
この混乱は申請者や関係者に直接的影響を与えている。ある労働者は「契約締結後三か月近くたっても進展がなく、不眠状態が続いている」と語り、借金返済にも支障を来しているという。送り出し機関では資金繰りが逼迫し、受け入れ先でも人材不足が顕在化している。
こうした諸問題に隙を突いて、一部仲介業者が「職員への手数料」名目で高額な代行料を請求している。労働局は、OWICは本人が必要書類を揃えれば追加費用なしで取得できるとSNSで警鐘を鳴らし、本人申請を推奨している。また、「Safe Migration」では記入例や審査対象者名簿を公式ページで公開し、透明性向上に努めている 。
この混乱を早期に収束させるためには、オンライン受付と郵送申請の併用、処理状況の可視化体制、書類不備を防ぐ事前チェック、災害時のバックアップシステム、そして発給枠の柔軟化が急務である。こうした改善により、1万人を超える申請待ちの削減と申請者の精神的・経済的負担の軽減が期待される。
スマートカードはミャンマー人の海外就労において事実上の「通行証」である。混乱が続く中、制度の信頼回復と手続きの安定化が進まなければ、当事者に甚大な影響が及び続ける。政府および関係機関は透明性と安定性を念頭に制度の整備を進め、申請者と受け入れ社会が安心して未来を見据えられる体制を、一刻も早く構築すべ
きである。(ミャンマー総合研究所 宮野弘之)