ミャンマー、看護訓練学校15校を「看護学院」に格上げ
日本の介護人材確保にも影響
今年度に4,300人受け入れ
ミャンマー政府は、国内15カ所の看護訓練学校を「看護学院(Institute of Nursing)」に格上げし、看護・助産教育の高度化に乗り出した。医療従事者の養成能力を拡大するとともに、研究、デジタル技術、人工知能(AI)、英語教育を強化し、東南アジア諸国と同等の看護教育水準を目指す。この政策は国内医療体制の再建を主目的とするが、中長期的には日本への介護人材の送り出しにも影響を与える可能性がある。ただし、ミャンマーの看護資格がそのまま日本の看護師資格や介護福祉士資格として認められるわけではない。日本側の制度と接続するためには、日本語教育、介護技能教育、資格試験対策を組み込んだ別途の人材育成ルートが必要となる。
看護・助産教育の再編

政府系英字紙『Global New Light of Myanmar』(7月17日付)によると、ミン・アウン・フライン大統領は7月16日午前、ネピドーで開かれた看護学院(ネピドー)の開所式に出席し、東南アジア諸国と比較しても遜色のない看護師・助産師を養成するため、ミャンマーの看護・助産教育を標準化する必要があると述べた。大統領は、地方の州・管区に置かれる複数の学院と合わせて開所を宣言した。
大統領は開所式の演説で、看護師が国内外の大学で博士課程まで段階的に進学できる機会が開かれるとし、看護教育の発展を促すために訓練学校を学院へ格上げしたと説明した。残る看護、助産、関連分野の訓練学校27校についても、新政権の最初の100日計画の優先事項として、組織上の格上げが行われたという。
2026~2027年度には、3年制の看護・助産ディプロマ課程に2,900人、2年制の総合助産ディプロマ課程に1,400人、合計4,300人を受け入れる計画である。大統領は、将来の医療体制が技術を基盤とするものへ移行しつつあるとして、学生に対し研究能力、デジタル技術、AI活用能力、英語力の向上に努めるよう求めた。
その一方で大統領は、人間性、慈しみのケア、思いやり、親切という「看護の技術(The Art of Nursing)」は、いかなる物や機械にも代替できないと強調し、看護職の誇りと尊重を訴えた。式典にはニョー・ソー副大統領、イエー・ウィン・ウー国軍司令官も出席し、大統領は図書室、コンピューター室、講義室、討議室、シミュレーター訓練室を視察した。
同紙によると、ミャンマーでは1962年以降、看護・助産ディプロマ取得者4万5,245人、助産師4万2,524人が公務員として医療サービスに従事してきた。今回の再編は、従来型の職業訓練中心の制度から、高等教育、研究、人材の専門分化を重視する制度への転換を意味する。
「大学」ではなく「学院」
日本側が留意すべきは、格上げ先が「大学(University)」ではなく「学院(Institute)」である点である。ミャンマーの看護教育では、ヤンゴンの看護訓練学校が1991年に同国初の看護学院へ格上げされ、2005年にヤンゴン看護大学(University of Nursing, Yangon)へ再昇格した経緯がある。学院は大学の下位に位置づけられる段階であり、今回開設された課程も3年制および2年制のディプロマ課程で、学士課程ではない。
同紙によると、保健省が教育・訓練を提供している大学は、医科大学6校と保健関連大学11校の計17校である。2023年にはネピドー国立アカデミーに医学部が設置された。今回の措置は、これらの大学とは別枠の再編であり、職業訓練中心の制度から高等教育・研究志向の制度への「移行の入口」と位置づけるのが正確である。教育内容が実際に高度化するかは、今後の課程編成に委ねられているとみられる。
医療人材不足と公務員配置
ミャンマーの看護教育改革には、地域医療を支える人材を量的、質的に確保する狙いがある。看護師や助産師は、病院だけでなく、地方の保健施設、母子保健、感染症対策、自然災害時の医療、地域住民への健康教育を担う。とりわけ地方部では医師の配置が限られるため、看護・助産職が一次医療の実務を担う場面が多い。
もっとも、教育機関の格上げが直ちに教育の質の向上につながるとは限らない。教員数、臨床実習先、教材、医療機器、学生寮、卒業後の配置、給与水準などの整備が伴うかが問われる。同紙は3月、政府が看護師の給与体系の引き上げと月額手当の支給に取り組みつつ訓練学校の格上げを進めていると伝え、5月には新卒看護師1,453人を任用する方針も報じている。
ここで重要なのは、ミャンマーの看護・助産ディプロマ取得者が、原則として公務員として医療サービスに配置されてきたという事実である。年間4,300人の養成枠は国内医療体制の再建を前提としており、卒業生をそのまま海外へ送り出す構図にはならない。海外就労が急速に増えれば、国内の医療人材がさらに不足する可能性もある。政府としては、国内医療を維持しながら、一定期間の海外就労をどう制度化するかが課題となる。
日本側の25万人の上積み
日本側では、介護人材不足が一段と深刻化している。厚生労働省が2024年7月12日に公表した第9期介護保険事業計画に基づく推計では、必要となる介護職員数は2022年度の約215万人から、2026年度には約240万人へ増加する。2022年度比で約25万人(年6万3,000人)の上積みが必要となる計算で、2040年度には約272万人(同比約57万人増)が必要になると見込まれている。
2026年1月23日に閣議決定された介護分野の分野別運用方針は、2028年度に必要となる就業者数を235万7,300人と推計した。介護ロボットやICTの活用による生産性向上(4万7,100人程度)と、処遇改善や高齢者・女性の就業促進による追加的な国内人材確保(5万1,500人程度)を進めてもなお、16万700人程度の人手不足が見込まれるとしている。介護分野の有効求人倍率は2024年度に4.08倍で、全都道府県で2.00倍以上の水準にある。
技能実習から育成就労へ
外国人が日本の介護現場で働く制度は、現在、EPAに基づく介護福祉士候補者、在留資格「介護」、技能実習、特定技能1号「介護」の四つである。ただし技能実習制度は2027年4月1日に廃止され、育成就労制度へ移行する(2025年9月26日閣議決定)。既に在留する技能実習生には経過措置が設けられ、制度の完全移行は2030年ごろとなる見通しで、ミャンマーからの採用も、今後は特定技能と育成就労の二本立てで設計する必要がある。
2026年1月23日の閣議決定は、特定技能制度と育成就労制度の受入れ見込数を一体で再設定した。介護分野全体では2024年度から2028年度までの5年間で16万700人、うち1号特定技能外国人が12万6,900人、育成就労外国人が2027年度からの2年間で3万3,800人である。この見込数は受入れの上限として運用され、超過が見込まれる場合には在留資格認定証明書の交付が一時停止される。2024年3月の閣議決定で示された介護分野の特定技能13万5,000人という数値は、これにより更新された。
日本とミャンマーは2019年3月28日、ネピドーで特定技能に係る協力覚書(MOC)に署名した。両国政府が情報を共有し、悪質な仲介事業者の排除、労働者の保護、手続上の問題解決を図る枠組みである。同覚書は2024年3月29日に、2024年4月1日から5年間の期間更新が行われている。
「看護師」と「介護職」の別
注意すべきなのは、ミャンマーで看護課程を修了しても、日本で直ちに看護師として働けるわけではない点である。日本で看護師として業務を行うには、原則として日本の看護師国家試験に合格し、免許を取得しなければならない。外国の看護資格保持者が国家試験を受験する場合も、学歴、教育内容、履修時間、臨床実習などについて受験資格認定を受ける必要がある。
特定技能「介護」は看護師制度とは別の在留資格であり、業務の中心は、入浴、食事、排せつ、移動などの身体介護と、それに付随する支援である。従事できるのは直接雇用に限られ、事業所単位の受入れ人数は日本人等の常勤介護職員の総数が上限となる。訪問系サービスに従事するには、介護職員初任者研修課程等の修了と実務経験が求められる。
特定技能1号「介護」で働くためには、原則として、介護技能評価試験、介護日本語評価試験、日本語能力試験N4以上または国際交流基金日本語基礎テストへの合格が必要となる。2026年1月の分野別運用方針では、技能水準を「介護特定技能評価試験(技能)」相当以上、日本語能力水準を「日本語教育の参照枠」A2.2相当以上および「介護特定技能評価試験(日本語)」と整理した。看護学院の卒業証書だけで日本の試験が免除されるわけではなく、ミャンマー側の看護教育と、日本側の介護資格・在留資格制度を混同しない制度設計が必要である。
介護人材の「基礎力」
今回の格上げは、日本向け介護人材の供給を直接の目的とした政策ではない。それでも、介護人材の養成基盤としては重要な意味を持つ。第一に、看護・助産課程の学生は、解剖・生理、感染対策、バイタルサインの確認、移動支援、清潔保持、栄養、認知機能、患者とのコミュニケーションなど、日本の介護業務と重なる基礎知識を学ぶ可能性が高い。
第二に、臨床実習や患者対応を経験した人材は、一般の求職者に比べて、高齢者や要介護者への接遇、安全管理、緊急時対応を理解しやすい。第三に、政府が英語、デジタル技術、AI教育を重視している点は、海外の医療・福祉制度を学ぶ能力や、日本の介護記録システム、見守り機器、介護ロボットなどに適応する能力の向上につながる可能性がある。
このため、看護学院の卒業生や中途修了者、関連する医療補助職の経験者を対象に、日本語と日本式介護を追加教育すれば、質の高い特定技能・育成就労人材を育成できる余地がある。
人材育成の五つの仕組み
看護学院の再編を日本への介護人材育成につなげるには、単なる人材募集ではなく、教育機関同士の連携が必要となる。まず、看護学院や関連訓練校に、日本語教育を組み込む必要がある。育成就労では入国前の時点で「日本語教育の参照枠」A2.2相当以上が求められ、入国後講習の日本語科目は240時間以上と定められた。入国要件を最終目標とするのではなく、介護現場で利用者の状態を理解し、事故や体調変化を報告できるN3程度を実務上の目標とすることが望ましい。
次に、日本の評価試験に対応したカリキュラムを整備する。育成就労では、開始後1年経過時までに介護育成就労評価試験(初級)、育成就労を終了するまでに同(専門級)の合格が求められ、入国後講習の介護技能科目は42時間以上とされた。移乗、体位変換、食事介助、排せつ介助、認知症ケア、感染対策、介護記録、事故防止などを、日本の基準に沿って教える必要がある。
第三に、日本の介護施設での就労を想定した文化・職場教育が必要となる。高齢者への言葉遣い、家族とのコミュニケーション、報告・連絡・相談、夜勤、チームケア、身体拘束の禁止、個人情報保護などは、渡日前に教育すべき事項である。
第四に、送り出し機関、教育機関、日本の登録支援機関・受入施設の責任分担を明確にしなければならない。ミャンマー在住者の採用では政府認定の送り出し機関を経由し、労働・入国管理・人口省の承認を得る手続きが前提となる。過大な手数料や借金を負わせる仕組みは、離職、失踪、転職トラブルの原因となる。日・ミャンマー間の協力覚書も、悪質な仲介事業者の排除を重要な目的としている。
第五に、卒業後のキャリアを提示する必要がある。介護分野には特定技能2号が設定されておらず、介護福祉士国家試験に合格して在留資格「介護」へ移行する経路が事実上の長期就労ルートとなる。育成就労から特定技能1号、そして在留資格「介護」へと続く道筋を示すことが、人材の定着につながる。
「教育機関との直結」
ミャンマーから日本への介護人材の送り出しは、今後さらに拡大する可能性が高い。ミャンマーは特定技能の国籍別で第3位の送り出し国となっている。しかし、看護学院の学生を卒業時に一括して採用するだけでは、持続的な人材事業にはならない。
日本側の介護施設や人材会社にとって重要なのは、送り出し機関だけでなく、看護学院、保健医療系学校、日本語学校、職業訓練機関と直接連携することである。例えば、2年から3年程度の共同養成プログラムとして、在学中から日本語、介護、日本文化を教え、卒業前に評価試験を受験させる仕組みが考えられる。日本の介護施設がオンライン授業、教材提供、教員研修、シミュレーター整備、奨学金などを支援すれば、採用後のミスマッチを減らせる。
受入側にも要件が課される点にも留意が必要である。育成就労では、育成就労指導員のうち1名以上が介護福祉士等であること、育成就労外国人5名につき1名以上の指導員を選任すること、原則として開設後3年以上を経過した事業所であることなどが定められ、転籍制限期間は2年とされた。
一方、ミャンマー国内で不足する看護師を大量に海外へ移動させる計画は、現地医療体制への影響が大きい。日本側は、看護資格者だけを採用対象とするのではなく、看護補助、介護、地域保健、福祉分野を含む幅広い人材層を育成することが望ましい。また、一定期間日本で勤務した人材が、帰国後に教員、施設管理者、在宅介護事業者として活動できる循環型モデルを設ければ、ミャンマー国内にも技能と所得が還元される。
有望な供給基盤
ミャンマーの看護学校再編は、直ちに日本への介護人材の派遣人数を増加させる政策ではない。しかし、医療・ケアの基礎教育を受けた若者が毎年数千人規模で養成される体制は、日本の介護業界にとって有望な人材基盤となり得る。
重要なのは、「看護学院の卒業者を日本へ送る」という単純な構想ではなく、ミャンマーの看護教育、日本語教育、日本の介護技能評価、適正な送り出し、就職後の定着支援を一つの教育経路として設計することである。日本の介護事業者にとっては、採用人数の確保だけでなく、医療知識を持ち、介護福祉士を目指して長期勤務できる人材を獲得する機会となる。ミャンマー側にとっても、海外就労を通じて介護技術、施設運営、認知症ケア、福祉機器の活用を学び、将来の国内高齢者福祉制度を担う人材を育てる可能性がある。
今回の看護学院への格上げを、国内医療人材の流出につなげるのではなく、日・ミャンマー双方の医療・福祉を支える循環型の人材協力へ発展させられるかが、今後の焦点となる。
(主任研究員 宮野弘之)
【主な出典】Global New Light of Myanmar(2026年7月17日付、同年3月各号)/厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(2024年7月12日公表)/出入国在留管理庁「介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針及び育成就労に係る制度の運用に関する方針」(2026年1月23日閣議決定)/外務省・法務省「特定技能に係る日・ミャンマー協力覚書」(2019年3月28日署名、2024年3月29日更新)
【注記】ミャンマー側の「Institute of Nursing」は、学位を授与する「University of Nursing」とは別の教育段階であり、本稿では「看護学院」と訳出した。特定技能・育成就労の受入れ見込数は上限として運用され、今後の政令・省令の整備状況により運用が変わる可能性がある。