MYANMAR FOCUS
中国支援の武装勢力UWSA、シャン州でレアアース鉱山を掌握
ミャンマー東部シャン州において、中国の支援を受ける武装勢力「ユナイテッド・ワ州軍(UWSA)」が、新たなレアアース鉱山の支配を確立し、採掘を開始した。2025年6月13日付のロイター通信によれば、現地では既にディスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重レアアース(Heavy Rare Earth Elements)の採掘が本格化している。
現場では、「リーチプール(heap leaching pond)」と呼ばれる抽出設備が20基以上稼働しているとされる。リーチプールとは、低品位鉱石に硫酸や塩酸などの溶液をかけて金属成分を溶出させる施設であり、コストが低く、大規模な設備を必要としないことから、中国南部やミャンマーで広く用いられている。ただし、土壌汚染や水質汚染を引き起こしやすく、環境面では問題が多いとされている(EarthRights International, 2025年報告書)。
また、ロイター通信は、衛星画像および複数の現地筋の証言から、採掘現場では中国語を話す管理者が作業を指揮し、武装したUWSA兵士が警備に当たっていることが確認され、採掘された鉱石は、トラックで中国国境方面へ輸送され、国内の精錬施設へ送られていると伝えた。
中国は現在、世界のレアアース供給において精製能力の85%以上を掌握しており、特に重レアアースの多くをミャンマーから輸入している。中国税関総署が発表した25年1~4月の貿易統計によると、同期間のレアアース輸入の約48.8%がミャンマー産であった(General Administration of Customs of China, 2025年4月統計)。これまで中国はカチン独立軍(KIA)が支配する地域を主な供給源としてきたが、2024年10月以降、KIAとミャンマー国軍(Tatmadaw)の戦闘激化により、輸送が事実上停止した(Reuters, 2025年3月28日)。このため、シャン州へ採掘拠点が移行したものと見られる。
英マンチェスター大学のパトリック・ミーハン准教授(政治地理学)はロイターの取材に対し、「これはカチン州以外での初の本格的な重レアアース鉱山開発であり、中国企業にとってシャン州は新たな安定供給拠点として注目されている」と分析している。
加えて、ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス社の鉱物資源アナリスト、ネハ・ムカージー氏(Neha Mukherjee)は、「ミャンマーでの処理コストは中国国内の7分の1に抑えられる。環境規制も緩く、利益率が非常に高い」と指摘している。
それだけに、環境への影響も深刻である。タイ北部チェンライ県では、ミャンマー側の鉱山排水が国境を越えて流入し、ヒ素・水銀・シアン化合物が検出されている。フランス通信(AFP)の報道によれば、タイ政府当局はコック川流域において住民に飲用や水浴の自粛を通達しており、「重大な汚染の兆候」として国際監視団の派遣を検討している(AFP Bangkok, 2025年5月24日)。
このような動きに対して、国連環境計画(UNEP)は越境汚染のリスクを指摘し、「急速に進行する開発の背後で、環境と主権が同時に危機にさらされている」との暫定報告を発表している(UNEP Draft Recommendations, June 2025)。
中国は24年12月に発表した新たな輸出規制で、イットリウム、ディスプロシウム、テルビウムなど7種のレアアースについて輸出申請を厳格化した(Reuters, 2024年12月27日)。この措置は、先端兵器や半導体製造に用いられる材料の国外流出を制限するものであり、特に米国との経済安全保障をめぐる摩擦の一因とされている。
米国政府はこれに対抗する形で、国内の鉱山開発および同盟国との供給ネットワーク再構築を進めている。25年5月、米国における唯一の本格的なレアアース鉱山・精製・磁石製造一貫企業MP Materials(エムピー・マテリアルズ)は、サウジアラビア国営鉱山会社のMa’aden(マアデン)と共同でレアアース供給網を構築する計画を発表している(Reuters, 25年5月14日)。しかしながら、供給体制の実現には数年を要する見通しであり、短期的には中国とその周辺国に依存せざるを得ない状況が続く。
ミャンマー東部で進むこうした鉱山開発は、国家の主権が及ばない地域において、中国が戦略資源の安定確保を図る地政学的動きの一環である。同時に、それは環境、安全保障、そして国際的なルールが交差しながら、政治的な空白地帯に位置する課題でもある。