202505.27

バングラデシュ、ミャンマー大使を召還 アラカン軍との接触と人道回廊構想で外交緊張 バングラ国内で軍と政府の対立深刻化

 バングラデシュとミャンマーの外交関係が急速に悪化している。ロイター通信(25年5月29日付)によると、バングラデシュ政府は、ミャンマー駐在のモノワル・ホセイン大使を突如召還した。これは、同国政府関係者がミャンマーの反政府武装勢力「アラカン軍(AA)」と非公式に接触していたことが明るみに出たことに起因している。

 アラカン軍は、ミャンマー西部ラカイン州において独自の支配体制を構築しつつあり、ミャンマー軍との間で断続的な戦闘を展開している武装組織である(The Irrawaddy、2025年5月29日付による)。このような状況の中、バングラデシュのカリルル・ラフマン国家安全保障顧問は、「人道危機に対処するためにはアラカン軍との対話が不可欠である」と発言した(ロイター、同日付)。これに対して、ミャンマーの軍事政権は激しく反発し、外交ルートを通じて正式な抗議を申し入れたとされる。

 バングラデシュ政府はホセイン大使の召還について「行政上の決定にすぎない」と説明しているが、ミャンマー側はバングラデシュ政府がAAと直接対話したことは「内政干渉」とみなしており、両国間の緊張が高まっている(The Irrawaddy、同日付による)。さらに、同国軍事顧問としてヤンゴンに駐在していたアフタブ・ホセイン准将も本国に帰還しており、外交布陣に変化が生じている。

 この外交的緊張は、国内政治にも波及している。『The Times of India』(2025年5月24日付)によれば、ムハンマド・ユヌス氏率いる暫定政権は、国連主導によるラカイン州への「人道回廊」設置を提案・支持している。だが、バングラデシュ陸軍はこの構想に対し、「国家安全保障を著しく損なう」として強く反対している。

 同紙によると、陸軍トップのワカール・ウズ・ザマン将軍は、この人道回廊を「血の回廊」と呼び、ユヌス政権のアラカン軍への譲歩姿勢を痛烈に批判した。また将軍は、ユヌス暫定政権の統治には正当性がないと主張し、2025年12月までに総選挙を実施すべきであると求めている。

 こうした状況により、外交的問題が政軍関係の緊張に直結している構図が浮かび上がってきた。アラカン軍との接触に関する方針をめぐって、文民政権と軍部の深刻な対立が表面化しているのである。今後の展開次第では、バングラデシュの政情は不安定化する可能性も否定できない。

 国境管理、人道支援、軍の影響力、政権の正統性――これらが複雑に絡み合う中で、バングラデシュはかつてない外交・国内政治の試練に直面している。