202510.06
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ミャンマー外交再編の行方──ミン・アウン・フライン大統領代行が示す新たな方向

 ミャンマーが新たな統治体制の下で外交の再構築を進めている。ミン・アウン・フライン大統領代行は、主要国との関係強化などを目的に相次いで外国を訪問。ロイター通信はこれを「自信の回復と国際的再接近の表れ」と分析している。12月下旬に予定される総選挙を前に、実務重視の外交姿勢が国の進路を左右する局面を迎えている。

実務外交の始動

 ミャンマーでは非常事態宣言解除後、国家安全保障平和委員会(SSPC=State Security and Peace Commission)が政治・行政の枠組みとして始動。同委員会を率いるミン・アウン・フライン大統領代行は、体制移行後の安定を図りつつ、外交活動を急速に活発化させている。

 国営紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー(GNLM)や、イレブン・メディアによれば、大統領代行はベラルーシ、ロシア、中国、カザフスタンなどを相次いで訪問し、経済・教育・技術分野における協力を拡大した。 6月にはベラルーシのミンスクで開かれたユーラシアン経済フォーラムに出席し、「経済発展における相互支援の重要性」を強調。その後、ロシア連邦ブリヤート共和国で工業施設や大学を視察し、エネルギー・教育・技術連携の強化を訴えた。
 さらに、大統領代行は8月には中国を訪れ、ハルビン工科大学で再生可能エネルギーやAI技術の導入を協議。成都や天津でも都市開発や港湾自動化の技術視察を行った。 続く9月にはカザフスタンの首都アスタナを訪問し、アスタナ国際金融センター(AIFC)で経済・金融政策をめぐる意見交換を行った。GNLM(9月29日付)は「経済、教育、保健、科学分野で新たな協力関係を築いた」との大統領代行の発言を紹介している。

国際社会へ接近はかる

 ロイター通信(25年10月3日付)は、「ミン・アウン・フライン大統領代行は過去半年で、政権掌握後の数年間を上回る頻度で外国訪問を行っている」と報じた。同報道によれば、同年6月以降、中国とロシアに2回ずつ、タイ、ベラルーシ、カザフスタンに1回ずつ訪問し、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相らと会談を行った。ロイター通信は、これを「12月総選挙を見据えた外交攻勢」と位置づけ、国際危機グループ(ICG)のリチャード・ホーシー上級顧問の分析として、「これらの外遊は、同氏の自信の高まりを反映している。国内戦況の改善、国内エリート層からの脅威の減少、外交的孤立の緩和が背景にある」と分析。そのうえで、同大統領代行が「国際的承認を意識した現実的外交路線を強化している」との見方を示している。

 ミャンマー国内ではSSPCの下、選挙管理委員会(UEC)が、12月28日からの総選挙に向けた準備を急いでいる。イレブンは、地方自治体や教育関係者がボランティアとして選挙管理の訓練を受ける様子を伝え、「地域社会の参加意識が高まっている」と報じた。GNLMは社説(9月末付)で「協調と安定を基盤に、多党制民主主義を段階的に前進させるべき」として、安定重視の論調を示している。

統治と承認の試金石

 ミン・アウン・フライン大統領代行の外交は、国際的孤立からの脱却と国内安定の確保という二重の課題を抱える。制裁下でも近隣諸国との経済・技術・教育協力を通じて関係維持を図る姿勢は、実務的な外交の表れといえる。
 一方で、こうした努力が総選挙後の国際的承認や経済支援につながるかは依然として不透明だ。
 12月末からの総選挙を節目に、ミャンマーがどのような国際的立場を築いていくのか。同大統領代行の実務重視の外交姿勢と各国への働きかけが、ミャンマーの今後を占う試金石となりそうだ。

(ミャンマー総合研究所 宮野弘之)